暑さも本格的となり、寝苦しい夜が続きます。エアコンをかけて寝る人も多いでしょうが、エアコンをかけたままだと起床した際に体はだるくなります。通常、人間は暑いと血管が広がり、汗をかくことで体温を外に逃がします。しかし、睡眠時に汗をかけないと体温の逃げ場がなくなり、体温調節がしにくくなります。
あまりにも寝苦しい場合は致し方ない面もあるでしょうが、タイマーを2時間ぐらいまでに設定して、熟睡中は適度に汗をかくほうがベターです。
さて、今週は「寝る場所」についてお尋ねします。高齢者の睡眠において、布団で寝るのとベッドで寝るのとでは、どちらがいいでしょうか。
まず布団は、押し入れなどから出し入れをせねばなりません。若くて体力があればいい運動になりますが、腰痛や膝痛を抱える人の場合、布団の出し入れはつらいでしょう。特に今の時期、万年床にしていると湿気でカビが発生するので、健康にはマイナスに作用します。もちろん「万年ベッド」もオススメできないのは言うまでもありません。起床後に布団を畳んで通気することが肝心です。
ベッドの場合、メリットとして寝起きの際の「膝と腰の負担」が軽くなることがあげられます。高齢者の場合、布団から起きて立ち上がるのは難儀です。ベッドであれば、体を横向きにして、ベッドから足を落とし、その体勢から起きると楽でしょう。
また、床から30センチぐらいの高さは「ホコリのゾーン」であり、ハウスダストが舞っています。布団の場合、この「ホコリのゾーン」で寝ることとなりますが、高さがあるベッドは睡眠中にホコリを吸わずに呼吸ができるため、布団に比べてハウスダストやダニによる影響が少なくなります。加えて、ベッドの下に物などを置いたりせず、通気性をよくすることも重要です。湿度とアレルギー=衛生面を考えてもベッドに軍配が上がります。
冬の季節に寝つきがいいのも布団ではなくベッドです。温かい空気は天井近くに、冷たい空気は床近くにたまります。当然、高さのあるベッドのほうが、布団よりも寒さを感じずに寝られます。
もちろん布団には「移動が楽」というメリットがあり、ベッドには部屋を狭くする、というデメリットもありますが、以上のとおり、健康面でもベッドに軍配が上がります。
しかし、全ての面においてベッドが優れているとは言いきれないケースもあります。例えば、コイルマットは腰に圧力が集中し、腰痛を悪化させることがあります。かといって、柔らかいマットだと体が沈み、腰に負担がかかります。
人間は熟睡していても「どの範囲まで動けるか」という寝返りの可動域を意識しています。そう考えると動きを制御されない布団のほうが熟睡できるとも言えますが、この点でオススメなのが、「高さが簡単に変えられるベッド」です。これならば、ケガをしない高さに調節できますので、安心できるでしょう。
昔は毛布の上に重厚な掛け布団を使用していましたが、現代のベストは薄手の羽毛布団です。羽毛布団は空気を遮断することで体の熱を吸収してくれるため、冬でも暖かさを感じられます。また今の時期でも暑さを遮断してくれるため、真夏でも効果が期待できます。もう一つ、朝まで同じ体勢でいると疲れが取れなくなりますが、羽毛布団は動きやすく、体に負担をかけないのでオススメです。
まとめると「通気性がよく、コイルのマットを入れず、硬くて薄いマットを入れ、高さが変えられるベッドに羽毛布団」で寝るのが理想的です。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。