運動不足解消でランニングをする人も増えていますが、ふだん運動をしない場合、息苦しさを感じることがあります。この時、気になるのが不整脈や狭心症です。同じ心臓疾患の両者を比べた場合、危険なのはどちらでしょうか。
不整脈はその名のとおり「心臓の速さやリズムが乱れる病気」で、症状のレベルとして三段階に分かれます。いちばん怖い「致死性不整脈」の場合、発作が起こると心臓が血液を送らなくなり、数秒で意識を失って死に至ります。これが「命に関わる不整脈」です。この際に、心臓にAED(自動体外式除細動器)による処置が間に合えば心臓が動き始め、一命を取り留めることになります。
今年2月、18歳で亡くなった「私立恵比寿中学」のメンバー、松野莉奈さんの死因が致死性不整脈でした。 死には至らないまでも重症になりうる不整脈が心房細動です。心房細動は即死せずとも脳梗塞を併発しやすく、非常に怖い病気です。
以上の二つは命に関わる不整脈ですが、致死性でも重症でもない「軽い不整脈」の場合、基本的に治療はしません。なぜなら不整脈の薬は心臓に負担をかけるので、心室細動や心房細動でないかぎり、うまくつきあっていくことが重要となるからです。
ちなみに、不整脈には目安があります。安静時、人間の心臓は1分間に50~100回ほど脈を打ちます。1秒1拍として1日に約10万回ですが、このうち不整脈が3000回を超えるかどうかが一つの目安になります。3000回以下だと治療しないというのが医師の判断基準です。
例えるならば、新品の時計の時刻は正確ですが、40年~50年も使っていれば少しずつ時計の針はズレていきます。このように、脈とは心臓の時計であり、ズレ方が「差し支えない程度であるか否か」が、不整脈の危険度を測る鍵です。
一方、狭心症とは心臓の冠状動脈に血液が行かなくなり、心筋が酸欠状態に陥ることで起きる病気です。全身に血液を送り続けているポンプの働きを果たしている心臓に、酸素や栄養を送り込むのが冠状動脈です。この冠状動脈に動脈硬化が起こると、供給される血液量が減少し、心筋が酸欠状態となり、胸が痛くなります。これが「狭心症」の正体です。
駅の階段を駆け上がった時に苦しくなるのも、心臓に送り込まれる血液中の酸素が足りていないという信号です。狭心症とは、心筋梗塞の一歩手前で、胸が圧迫されるような重苦しい痛みを感じます。そのまま、心臓に血液が行かなくなると、最悪のケース=心筋梗塞となります。
あらかじめ、100メートル走は大丈夫でも400メートル走は苦しくなるなど、自分自身で危険なパターンがわかっているケースは「安定型狭心症」です。自己判断で、大丈夫なはずの100メートル走が50メートルぐらいで苦しくなると「不安定型狭心症」で、非常に怖いパターンです。
命に関わる心筋梗塞の一歩手前である狭心症は、突然起きることは少なく、不整脈や心臓肥大などの前兆があります。
不整脈には「軽い症状」が存在しますが、狭心症には軽い症状がないため、狭心症のほうが不整脈よりも怖いと言えます。
心筋梗塞や狭心症は、高血圧や糖尿病、高脂血症などにより動脈硬化が進むと起こりやすくなります。激しい運動の際に起こる狭心症は強い胸の痛みを感じます。痛みが1~2分程度で止まればまだしも、それ以上痛むようならば即座に救急車を呼んでください。
もっとも、今は狭い血管をカテーテルで広げる手術が進んでおり、狭心症は治療可能な病気です。不安な方は早めに検査を受けてください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。