「この世界に入ってから、ギャンブルのたぐいをほとんどやらなくなったね。つまんないとこで運を使いたくないから」
殿のギャンブルに対する、基本的な考え方です。
そんな殿も、40年以上も昔、お金のまったくなかった学生時代には、高田馬場の雀荘でよく卓を囲んでいたそうです。
「大学に行かなくなって、プラプラしてた頃、雀荘で知りあった早稲田の学生と組んで、よくイカサマやってたんだけどよ、ちゃんとバレて、トイレの窓から逃げたことあったな」
そういえば、殿の麻雀の腕はなかなかのようで、以前、仕事で20年間無敗と言われた、伝説の雀鬼・桜井章一さんと卓を囲んだ際、殿は何度か上がり、ことのほかその打ち筋と、運の強さを褒められていました。
数学がめっぽう好きで、現役の東大生と数学で勝負する番組をやっていたほどですから、“数を合わせる”麻雀が強いのも、何となくうなずけます。そして、人生というギャンブルで、明らかに要所要所で勝ちを拾ってきたこれまでの殿を見ていると、勝負事にめっぽう強い運もお持ちであると、いたく納得いたします。
で、芸能界という世界に身を置いてからギャンブルをやらなくなった殿ですが、なぜか、宝くじは思い出したように時折買ったりしています。以前、年末の1等当選金額が5億だか6億だかの宝くじを大量購入され、
「当たったら軍団と大宴会だな」
と、実に呑気な発言をされていたことがあったのですが、それを聞いた軍団の誰もが、〈別に宝くじに当たらなくても、ちょくちょく大勢の軍団を連れて、大盤振る舞いをしているじゃありませんか〉と、軽く心の中でツッコんだのは言うまでもございません。
ちなみにわたくしが、以前、やはり殿が宝くじを大量購入されているのを目撃した時、「殿の人生は毎月宝くじを当てているようなものじゃないですか。いやらしい話、5億なんて、殿は軽く何十発も当ててますよね」と、やや下品な見解を述べると、実にあっさりと、
「それもそうだな」
と、うなずいたのでした。
で、10年以上前、殿が競馬の大変大きなレースで、“ほんのお遊びで”といった感じで、一番人気の馬を軸に、20通りほどの馬券を購入したことがありました。
「これが来たら、俺も夢の勝ち組だな。今日は思い切って赤いワイン飲んじゃうぞ」
と、ふざけながらも、かなり興奮していた殿と、軍団みんなで楽屋に集まり、テレビの前でそのレースを今か今かと待ちわび、いよいよ時間となって高らかにファンファーレが鳴り、勢いよくゲートが開いたその瞬間、殿が軸で勝っていた一番人気が、あろうことか思いっきり落馬して、早々とレースから姿を消してしまったのです。
「あっ! バカ!! 何やってんだ!」
殿の怒号と同時に楽屋は大爆笑。哀れ、殿の勝ち組構想は、一瞬で夢と消えたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!