「お前は夜中の通販の客か!」
わざとらしいリアクションや、大げさに驚いたりすると、殿は、かなり高い確率で、こういったツッコミを入れてきます。確かに、その昔の“昭和の通販番組”といえば、深夜の時間帯によく放送されていて、どの番組にも「やり過ぎ!」と、指摘したくなるほど大げさに驚く“観覧席に座るおばちゃんたち”が、必ずセッティングされていました。
そういえば15年以上も前、せっけんなどの通販で、ひと頃ブイブイ言わせていた、とある化粧品会社の社長と、たけし軍団の面々がお食事をご一緒した際、皆、口々に、「社長のとこのせっけんは最高ですね。化粧のノリが全然違うって嫁が驚いてました」等々、商品を絶賛したのですが、こういった時、必ず“やり過ぎてしまう”ダンカンさんが、「こないだ社長のところのせっけんを誤って飲んだら、10年患っていた痔が治りました!」と報告するや、それまで終始ニコニコしていた社長が「ダンカン、それはない!」と、きっぱりと険しい表情で否定されていました。それはさておき、
「今よ、俳優の○○が出てんだろ。また、あいつがわざとらしく驚くんだ。ギャラがいいからって何もそんなに力一杯やらなくたっていいじゃねーか」
「あの空気清浄機よ、全英アレルギー協会認定のシールが貼ってあるんだよな」
等々。とにかく殿は通販番組が好きで、本当によく観ています。
そんな殿と、7年程前、“殿がしゃべった内容を台本の形にしていく”北野映画の打ち合わせを二人っきりでしていた時のこと──。
殿がしゃべり出すとすぐ、ピーピーピーと、アラーム的な電子音が聞こえてきたのです。すると、すぐ横に座っていた殿が、いきなり着ていたセーターをまくり上げました。
でっぷりと突き出たお腹があらわになると、そこには、当時通販でやたら見かけた“付けるだけでお腹がヘこむ”と評判のダイエット器具「アブ○○ニック」が巻いてあるではありませんか! 音はそこが発信源だったのです。
〈いつの間に購入されたんだ!?〉と驚くわたくしなどお構いなしに、
「何だこれ、おかしいな‥‥」
そうブツブツつぶやくと、何やらボタンをいじくり、音を消してセーターを戻すと、また何食わぬ顔で映画の台本作業に戻ったのです。ブルブルブルといった微妙な振動音と、かすかな殿の“お腹の揺れ”を感じつつ、打ち合わせを続けること3分。ピーピーピーと電子音が再度鳴り出し、“うるせーな”といった感じで、先ほどより乱暴にセーターをたくし上げた殿は、
「どうなってんだこれ?」
と、実に不機嫌にボタンをいじくって音を消すと、打ち合わせを再開されたのです。その後、2時間程、台本作業は続いたのですが、殿のお腹のかすかな揺れと、たまに鳴る電子音が気になり、わたくし、その日はまったく集中できなかったのをよく覚えています。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!