ただ、意外な反応を見せたのが、被害馬を預かる相沢厩舎の関係者だった。専門紙ベテラン記者が話す。
「そもそも、大知が前走、前々走に続いて、引っ掛かってしまった点をあげていた。つまり『相手はもう余力がない』と、抜きにかかった善臣の判断が通常で、大知が締めにいかなくてもよかったってことですよ。確かにマイネルの主戦ジョッキーを務める大知としては、簡単に内に入られるのは格好いいものじゃない。それに、今季の東西リーディングで24位と低迷している焦りも感じられます(昨年14位)。それだけに前半で折り合いを欠いたテクニックの甘さを見抜いているトレセン関係者からすれば、大知の抵抗が見苦しくも見えるわけです」
一方の善臣にも、あのレースは強引にでも進路を確保したい理由があった。前出・ベテラン記者がこう続ける。
「実はあの馬、善臣が芝1600メートルへの初挑戦を提案していたんです。当然、結果が欲しい。それでレジェンドらしからぬ、強引な競馬になったんでしょう。ただ、もし大知が落馬して他の馬を巻き込んだりしていれば、そうした言い訳は通用しませんけどね」
この夏、競馬ファンを騒然とさせた二大事件簿。どちらも内幕を追っていくと、被害馬、加害馬の双方から思わぬ言い分が聞こえてきた。また、暴力的な危険騎乗に対する制裁にしても、サークル内で異論があることも事実のようだ。関西のベテラン記者が話す。
「かつては鞭を利用した攻防があり、肘まで使うケースはマレでした。15年4月18日の12Rで、当時3年目だった菱田裕二(24)がゴール前の競り合いで武豊(48)に肘打ちし、降着処分を受けている。馬上の豊さんが体を起こしてアゼンとする姿が印象的でした。レース後、菱田が平謝りだったと記憶していますが、ネット上では『ヒジタに改名か』と揶揄されたものでした。ただ、この時は故意ではないと判断されてか、『注意義務を怠った』という理由で、同年1月の違反と合わせて騎乗停止処分となった。この件から見ても、今回のデムーロの行為は誰の目にも故意の確信犯と映る。かなり悪質なだけに、長期の騎乗停止でもおかしくなかったと思います」
関西担当デスクもこう言うのだ。
「ラフで人望のないデムーロはともかく、善臣さんは背中を見て育ってきた関東の後輩騎手のためにも、引退まで模範であってほしいですね。西の同年代の豊さんや小牧太さんは、決してムチャはしませんからね」
一つでも上の着順に──という気持ちはわかるが、今後は、馬券を握りしめるファンが納得するような好騎乗を期待したい。