盛夏の下で繰り広げられたローカル開催も今週でラストを迎える。今季はM・デムーロが馬上から強烈なエルボーを放って先行争いを制すれば、大ベテランは直線の攻防で先行馬をふっ飛ばしての追い抜き‥‥。ファンも騒然とした“二大暴力騎乗”のその後を追ってみると、意外な人間模様が見えてきた──。
7月29日、ローカル競馬の後半戦を告げる小倉・新潟・札幌の開幕日に事件は起きた。スポーツ紙関西担当デスクが振り返る。
「小倉第2R、ダート1700メートル戦でした。M・デムーロ(38)の3番ブレイブウォリアー(4番人気)と川田将雅(31)の7番ミアグレイス(3番人気)がスタート後に先行争いを展開。最初のコーナーでは川田がデムーロの前に出る形で切れ込み、一度は先頭に立ちました。が、デムーロも負けじと内から並びかけたその時です。コーナーを回りながら、デムーロが川田に強烈な肘打ちを放ったんです。さらに2角を回りきる頃には、川田に向かって左の肘を回すような威嚇のポーズまでしていた。どうも、『寄ってくんなよ!』とでも言っていたようです」
1角で切り込んだ川田は内側に斜行したことで「戒告」。エルボーをお見舞いしたデムーロには「過怠金10万円」の制裁が科せられた。ちなみに、JRAの「裁決レポート」には「左肘で小突く事象がありました」と、前代未聞の文言が明記されている。
前出・スポーツ紙関西担当デスクが続ける。
「おいおい、『小突く』じゃなくて『肘打ち』だろうと思いました(苦笑)。ただ、JRAも『小突く』とした以上、故意を認めているわけですから『過怠金10万円』は、いささか甘い処分と思いましたね。意識的に肘を突き出しているわけだから確信犯であり、格闘技以外のスポーツなら、暴力行為と見なされて一発退場モノです」
現場で取材したスポーツ紙の記者も、こう語る。
「若手騎手の一人が『もし僕がやっていたら騎乗停止で間違いない』と言っていましたし、あるベテラン調教師も『草競馬でもありえない。相手が落ちたら、どうするつもりだったのか』とあきれていました。そのためか、当日の5RでデムーロがJRA通算700勝を達成したんですけど、盛り上がりに欠けていた。たくさんのジョッキーが集まって祝福してもおかしくないのに、表彰式のプラカード持ちは新人の川又賢治(19)と3年目の加藤祥太(20)。記者席からは『辞退者が続出したんじゃない?』なんて声が漏れていましたね(苦笑)」
ただ、デムーロの胸中を思いやり、こう話すサークル関係者もいる。
「あの馬はクセのある馬で、馬体重の変動も激しい。それまでの6戦は全て差し・追い込みの競馬。あの時が初めての逃げで、これまでとは違う一面を引き出したい陣営の思惑だったり、馬主が社台系のキャロットファームだけに腕の見せどころだった。ところが、デムーロはローカルの小回りが久しぶりのうえ、藤懸貴志(24)の2番サンライズチャージ(2番人気)も好スタートを切った。そんな時に川田に切り込まれ、負けん気の強いデムーロのことだから、つい、カッとなったんじゃないかな」
そもそも川田の斜行が発端という見立てだが、とはいえ、暴力騎乗が許されるわけではない。民放局記者が話す。
「その後、デムーロが川田に謝罪したという話は聞いていないけど、二人のエージェントは同じ人物で、彼が上手に収めたようです。その結果なのか、あの日以降、デムーロはクレバーな騎乗に徹しています。8月20日の北九州記念では、1番人気馬に騎乗しながら直線で前が塞がっても無理にこじあけずに流れに任せていた。でも、検量室に戻ってくると『(空けば)勝ってた、勝ってた!』と叫びながら『周りがフラフラしてて』と言い訳していました(笑)」