かつてブラウン管の中には、男たちが共感し、背中を追うべき「本物の漢たち」がいた。死ぬこともまた“激烈な生”であることを俺たちは教わった。
〈大さん、疲れたろ? だから眠っているんだろ、お前。‥‥頼む、一言でいい。何とか言ってくれ‥‥言ってくれっ!〉
渡哲也扮する大門団長の遺体に語りかける木暮課長。もちろん、石原裕次郎である。人気ドラマ「西部警察」(テレビ朝日系)の最終回は、84年10月22日にオンエアされた。霊安室での裕次郎は、語りかける全てのセリフを自身のアドリブで行ったという。
〈大さん、俺はなあ‥‥お前さんのこと‥‥あんたのこと‥‥弟みたいに好きだった‥‥ありがとうっ!〉
セリフを超越し、石原プロの腹心として苦労をかけた渡への感謝の弁である。渡は遺体として横たわっているため、裕次郎の言葉に感激して涙を流してはまずい…、そのため、耳栓をして演じたそうだ。
さて、沢田研二が三億円事件の犯人を演じた「悪魔のようなあいつ」(75年、TBS系)の伝説の最終回。事件の時効を間近に控えながら脳腫瘍に侵され、それでも、盗んだ三億円を自身の誇りとする。
〈この金がなかったら俺は何者でもなかったよ。そこいらの工場の工員とか、売れないギター弾きか、コールボーイ。淫売野郎だよ〉
やがて、藤竜也や荒木一郎ら身近な者たちを次々と射殺し、荒木に至ってはダイナマイトで爆死させる。
沢田を追い続けた警部の若山富三郎によって撃たれ、札束が風に舞う前で、血まみれになりながら笑い続ける沢田。バックには自身の代表曲「時の過ぎゆくままに」が流れ、放送コードギリギリの危険なエンディングとなった。
萩原健一演じる「アニキ」と、水谷豊演じる「アキラ」が抜群のコンビネーションを見せた「傷だらけの天使」(74~75年、日本テレビ系)は、当時の若者たちのバイブルとなった。探偵事務所の調査員として働く2人の軽妙なやり取りは、その後の多くのドラマに影響を与えている。
最終回は、アキラが真冬に噴水を浴びたことから風邪をこじらせ、肺炎になったものの、アニキに見捨てられて孤独死。住んでいたペントハウスにエロ本のヌードグラビアをまき散らし、アニキはアキラを葬る。
ラストはアキラの遺体を東京のゴミ捨て場である「夢の島」まで運び、いずこともなく去ってしまう
〈アキラよお、お前、風邪で死んじゃうなんておかしくて涙も出ねえよ〉
それがアニキのラストメッセージであった‥‥。
90年代のトレンディドラマ全盛期にあって、異彩を放ったのが「愛という名のもとに」(92年、フジテレビ系)である。唐沢寿明、江口洋介、鈴木保奈美ら7人の若者が、それぞれの人生を見つめ、仲間として危機を乗り越えてゆく。
中盤のクライマックスとなったのは、チョロこと中野英雄の首吊り自殺の衝撃的なシーン。
〈俺、卒業して社会に出るのが怖かった。けど今は、社会から出るのが怖い〉
自殺の直前、パワハラ上司を絞殺したと思い込み、恐怖を打ち明けた名セリフである。そして恐怖に打ち勝つことができず、青春時代の象徴であるボート部の部室で命を絶つ。
これが出世作となった中野は、プロデューサーから「お前がいい芝居をしたら殺してやる」と、役者魂を鼓舞されたそうである。
最後は、スポーツ熱血ドラマの傑作「スクール☆ウォーズ」(84~85年、TBS系)を。無名の高校ラグビー部が花園で頂点に立つまでを実話に基づいて描かれたが、後半になるにつれ、原作と関係なく次々と主要キャストに死が襲いかかる。
梅宮辰夫は部員たちが集まる中華料理店のマスターを演じたが、部員の父が借金でヤクザに脅されていることを知り、単身乗り込む。
〈見逃してやっちゃくれねえか〉
だが、梅宮は凶刃に倒れる。それでも死の直前、刺したヤクザの罪を軽くするよう刑事に頼む男気を見せた──。