9月27日、甲子園球場で行われたウエスタン・リーグ・阪神対広島戦で、阪神・狩野恵輔、広島・江草仁貴の引退試合が行われた。狩野は2000年ドラフト、江草は02年ドラフトで共に阪神に入団。バッテリーを組んだこともある間柄だった。
時は07年。狩野は、前年にウエスタン・リーグ首位打者を獲得し、7年目のシーズンにして浅井良、野口寿浩を押しのけて正捕手・矢野燿大の第2捕手の座を勝ち取った。自身にとって初の開幕一軍だった。4月20日の対巨人戦、延長12回に代打で出場し、プロ初安打、初打点となるサヨナラ安打を決めた。阪神ファンのスポーツライターが振り返る。
「プロ初安打が巨人からのサヨナラヒット。これを喜ばない阪神ファンはいない。『ポスト矢野がついに見つかった!』と誰もが期待を寄せていたんです」
この年、レギュラーに定着したものの、思わぬ障壁にぶち当たる。
「09年オフに、阪神はMLBシアトル・マリナーズを退団した城島健司を獲得しました。結果的には正解でしたが、当初は『せっかく狩野が育ってきたのに』という声が多かった」(前出・スポーツライター)
そして10年、打力を買われて外野手として19試合出場したが、捕手としては1試合のみの出場にとどまった。10月のフェニックスリーグでは腰を痛め、椎間板ヘルニア除去手術を受けた。狩野の苦悩は続く。
「捕手としては致命的な怪我でした。ヘルニアの影響で13年には育成選手契約にもなったし、支配下登録選手に復帰しても、二軍生活が多かった。そして15年、一軍に昇格すると代打で起用されることが増え、当時『代打の神様』だった関本賢太郎が戦線を離れると、ここ一番の代打で狩野が起用されることになり、きっちり結果も出しました。16年には名実ともに『代打の神様』に就任。『代打、狩野』のコールは、本物の大歓声でしたからね」(前出・スポーツライター)
時計の針を現在に戻そう。27日の引退試合には、もうひとり、今季限りの現役引退を表明している選手が出場した。09年、狩野と共に開幕戦のバッテリーを組んだ投手・安藤優也だ。この安藤にもこんなエピソードがある。
「有名な話ですが、2011年頃、安藤が乗ったタクシーの運転手が阪神ファンで、だけど客が安藤であることがわからず『安藤はもうダメですね』と言った。その後、自宅までの間ずっと、自分に対するバッシングを聞かされ、かなりヘコんだそうです。しかし、それをバネに安藤が返り咲いた。ベテランの中継ぎとして、福原(忍)と共に、ブルペンを支えてくれたんです」(前出・スポーツライター)
9回2アウト。マウンドには安藤が、マスクはもちろん狩野だ。打者の広島・堂林翔太を空振り三振に打ち取り、ゲームセット。
「最後の場面で09年の開幕バッテリーですからね。しかも、それが2人がもがき苦しんだ二軍の試合だっていうのがいいじゃないですか」(前出・スポーツライター)
阪神は今、シーズン2位に向けて負けられない試合が続く。それは、安藤の引退試合をする状況ではなくなる可能性があるということ。スポーツライターは目をうるませながらこう言う。
「それでもいいんじゃないかと思えるほど、これまでの苦悩だとかが救われた、完璧な引退試合でしたよ」