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現役時代、「捕手とは?」ということを考え続けてきた野村氏。監督になってからも捕手育成をチーム作りの柱にしてきた。
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1990年、私がヤクルト監督に就任した時、古田敦也(現解説者)が入団してきました。社会人出身とはいえ、新人捕手を即1軍では使えません。古田にも「最低1カ月は勉強せい」「試合中、ブルペンなんかに行かんでいいから、俺のそばにおれ」「俺のつぶやきを聞いていろ」と申し渡しておきました。ところが、開幕早々、当時の正捕手だった秦真司(現巨人3軍コーチ)のリードに、私はどうしても我慢がならなくなったんです。
開幕の巨人戦のことでした。ある打席、カウント3ボール0ストライクになったところで、彼は投手にカーブを要求した。結果から言うと、そのカーブはボール球となり、これを見送った打者はあっさり四球で出塁した。
少し野球を知っている人なら、この場面で打者は100%打ってこないと考えるはず。それなら配球は、カウントを取るための直球でいい。そこで何故カーブを投げさせるのか。私には理解できず、ベンチに戻ってきた秦に問いただした。すると返ってきた答えは「打ってくると思いました」。ヤクルトのレベルの低さを痛感しました。彼はすでに入団6年目でしたが、打撃がいいというだけで正捕手に起用されてきたのでしょう。しかし、捕手がこのレベルでは優勝などおぼつかない。私は秦を外野にコンバートし、古田の捕手起用を決断しました。その秦が、巨人ではコーチとしてバッテリーを担当しているわけでしょう。老婆心ながら、巨人の捕手育成が心配になりますね。
捕手の育成には時間がかかります。それと、再び手前味噌になりますが、頭の回転がよくないと務まらない。学校の成績と野球頭脳は関係ないようで、実はあるものです。前出の古田は、中学・高校時代に成績優秀だったと聞いています。
そこで、楽天監督時代、捕手4人の中学時代の通信簿を調べたところ、現在も正捕手として活躍している嶋基宏がオール5でした。「お前、10段階評価の5なのか」と聞いたら「5段階評価の5です」と言う。勉強はできるし頭もいい。それで、嶋を正捕手に据えました。
今秋のドラフトで上位指名が有力な中村奨成(広陵高)の成績は知らないけど、甲子園での試合を見たかぎりでは、いい捕手になれる素質はあると思います。問題なのは本人のリードに対する意識と、彼を伸ばせる球団、すなわち捕手の大切さをわかっている監督・コーチがいる球団に入れるかでしょうね。
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中村同様、プロ入りを表明した清宮幸太郎(早稲田実業)についても、野村氏はエールを送る。
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打撃がうまいとか、いい投球をするとかは、はっきり言って二の次。打球の飛距離、肩の強さ、足の速さという天性は、教えて向上するものではない。逆に言えば、天性を持っている子を鍛えれば、何とかなる。清宮の遠くへ飛ばす能力は天性のもの。この資質だけは、どんな名コーチも与えることはできない。ただ、プロの投手は高校と違って徹底的にインコースを攻めてくる。そこが克服できるかどうか。
ただ、いずれにしても将来プロになる気があるのなら、早く入ったほうがいい。大学にもいい指導者はいると思いますが、18歳から22歳というのは基礎を作るのにいちばん大事な時期。その時期にしっかりした指導を受けられるかどうかは大きい。プロは基礎、基本、応用という段階を踏んで指導する。これに対し大学は、どうしても目先の結果を追いがちになってしまうところがありますからね。
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今オフはドラフト以外にも、日本ハム・大谷翔平のメジャー移籍、複数球団の監督交代などが注目されている。野村氏の古巣・ヤクルトも、すでに真中満監督の辞任が決定しており、後任人事が気になるところだ。
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大谷の登場はまさしく革命だったと言えるでしょう。投手としても打者としても掛け値なしの天才です。メジャーでは投手として起用されるのでしょうが、ひと言アドバイスするとすれば制球に気をつけることです。150キロのド真ん中より、130キロの外角低めのほうが打者を打ち取れます。高めの直球で三振を狙うという考えに固執しなければ、現在のメジャーのレベルから考えても、十分通用するでしょう。
ヤクルトは、OBで監督の器を備えているのは宮本慎也(現解説者)だけでしょう。内野手出身だけに、考える野球も身についている。宮本監督なら私も見てみたいが、彼は私と同じで処世術が下手(笑)。今の野球界の監督人事は、能力より処世術が優先される傾向がある。宮本が監督になるようなら、野球界もまだまだ捨てたものではないということになりますが、はたしてどうなりますかね。