日頃の運動不足の体を鍛えるには、スポーツが最適です。年齢が上がるほど、ケガには気をつけたいもの。トップアスリートのイチロー選手でさえ2時間も費やしている準備運動は非常に大切です。念入りに行ってください。
先日、草野球でケガをした人が2名、治療に訪れました。1人は走塁で足を捻挫、もう1人はデッドボールで手首を打撲していました。2人ともケガの回復具合を確認していましたが、より安静にするべきはどちらでしょうか。
打撲は体にあざができます。内出血を抑えるために場合によっては患部を冷やします。痛みや腫れが治まったら、今度は温湿布や蒸しタオルで患部を温めれば治ります。打撲の個所が腹や胸だと骨や内臓への影響も考えねばなりませんが、腕なら単なるケガで済みます。骨折さえしていなければ、痛みはあるものの、それほどの心配はいりません。
骨折は痛みがあり、当事者にとってみれば甚大な大ケガですが、骨にはものすごい治癒力があります。交通事故による粉砕骨折でも、2カ月もたてば元どおりになります。
「捻挫」とは、骨と骨を連結させる関節に、許容範囲を超えた応力が加わった際に起こる損傷です。骨折が時間の経過とともに治るのに対し、長引いて慢性化しやすい、やっかいなケガです。しかも関節は治癒力が弱く、腱や半月板を痛めると、ほぼ自己治癒力での修復は期待できません。ひどくなると脱臼や亜脱臼、腱断裂となります。
強い衝撃により関節がズレた捻挫の場合、関節の周囲の腱が伸びきった状態となり、放っておくと伸びたままの関節が緩くなり、習慣性脱臼を起こしやすくなります。転倒などで一度でも外傷性肩関節脱臼をすると、もう一度脱臼をする可能性は70%と言われるほど習慣性が強いのです。
半月板損傷の場合、症状によってはリハビリや抗炎症薬の処方などで改善する場合もありますが、手術をしても全治しないケースもあります。スキーなどの事故のように、膝に全体重がかかった状態で半月板を損傷すると、一生後遺症を抱えるケガともなります。
捻挫は、初期の段階でしっかりとテーピング固定をすべきです。ひどい場合は、ギプスで固定して習慣化を防がねばなりません。スプレーで冷やしたり、痛み止めを飲んでスポーツを続行したりするのは絶対に避けてください。
打撲は湿布を貼っておけば放っておいても治りますが、脱臼や腱断裂は2~3カ月の治療を要する場合もあるため、早めに整形外科へ行ってください。
スポーツのケガは、「RICE処置」が基本です。R=Rest(休息・安静)、I=Ice(アイシング)、C=Compression(圧迫・止血)、E=Elevation(患部を高くする)の原則を覚えておけば、急な捻挫でも慌てることはないでしょう。
打撲や捻挫では、表面に出血が見られずとも内部では出血が起きています。放っておくと出血が進み痛みも増すため、圧迫固定で出血を最小限にとどめることが大前提なのです。
また、スポーツ選手に付き物のケガといえば「肉離れ」です。今季は大谷翔平選手が開幕から3カ月を棒に振ってしまったとおり、肉離れは骨折より治療がやっかいなのです。反復的に筋肉が収縮した結果、筋膜や筋繊維が損傷することで、ひどいと筋断裂や腱断裂となり、軽くても2週間から1カ月、重いと2カ月以上の治療が必要となり歩行すら難しくなります。一度起こすと、切れた筋肉の周りの筋肉で補強するなど時間がかかるためです。ストレッチや入念な準備運動でケガの予防を心がけましょう。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。