わずかな出場枠を巡り、激しい駆け引きが展開されるのが「紅白」である。今年で68回目という長い歴史に刻まれた女たちの怨念を総ざらいリサーチ!
女王・美空ひばりは紅白においても強気の発言が数多い。特に70年に紅組司会を務めると、翌71年10月に記者団を前に大演説。
「もう二度と司会者をやろうと思いませんね。去年の出場メンバーを見てびっくりしちゃった。当然入らなきゃいけない人があの人もこの人も落ちている。こんな人がと思うような人が入ってるでしょ。まともに歌っていられない。こんな紅白には出る気はしません」
今なら即「炎上」につながる運営批判だが、結局、この年もトリで堂々と出演している。そんなひばりの親友が江利チエミだが、前述の過激発言につながる一幕があった。
「私はヒットがないので」
チエミはそんな言葉で当選発表された70年の紅白をみずから辞退。その前年に初めて紅白に落選し、しかも、70年は「希望」が大ヒットした岸洋子が病気で辞退し、その“繰り上げ出場”という扱いに、二重の抗議を込めての発言だった。
なんともNHKらしい“苦肉の策”は、68年に「伊勢佐木町ブルース」で2度目の出場となった青江三奈。大ヒット曲はイントロの「♪ア~ン、ア~ン」という悩ましいため息が印象的だが、悩ましすぎて当時はオンエアできない。
この急場をしのいだのが、司会の水前寺清子らが持ち寄ったおもちゃのラッパ。色っぽい歌が、どこかコミックソングになってしまったが、時代とともにNHKも変わる。82年には晴れて、ため息つきの「伊勢佐木町ブルース」が解禁された。
紅白史上最大とも言える、ステージで「とばっちり」を受けたのが85年の河合奈保子である。河合の出番の1つ前が初出場の吉川晃司だったが、ステージにシャンパンをぶちまけ、ギターに火をつけて叩きつけるなど、持ち時間を無視したパフォーマンスが続く。
このため、次の曲のイントロが鳴っているのに河合はステージに近づけず、冒頭のフレーズを歌えずじまい。吉川は河合に直接謝罪したそうだが、以降、十数年もNHKを出入り禁止になってしまう‥‥。
今では珍しくなくなってしまった「別の場所からの中継」は、90年が元年である。あまりにも有名な長渕剛の「ベルリンからの15分間もの電波ジャック」もあったが、ニュースを挟んでの後半の冒頭に登場した宮沢りえもまた、NHKホールに姿がない。
「りえちゃ~ん、どこにいるの~?」
紅組司会の三田佳子の呼びかけに、何度か「ここよ~、ここ、ここ」と答えたりえは、なんと近くのビルの屋上でバスタブに入ったまま登場。歌った「Game」という曲も一般になじみがないこともあり、アイデア自体も不発に終わる。
さらに、苦虫をかみつぶした御大・北島三郎のコメントが拍車をかけた。
「中継が続くと会場の空気が冷めちゃうんだよな」
‥‥ごもっともな指摘であろう。サブちゃんと同じく「紅白の顔」に君臨したのは小林幸子である。年々、スケールを増す衣装(というよりセット)は瞬間視聴率も高かったが、やらかしてしまったのが92年のこと。この年、6万個のLEDをまとった豪華衣装をきらめかせるつもりが、コンピューターのトラブルで点灯に失敗。すると──、
「やった、やった、ざまあみろ!」
ステージ袖で誰よりもはしゃいでいたのが、幸子嫌いで知られる和田アキ子だったのだ。
思いがけない理由で仲間を裏切ったのが「モーニング娘。」の安倍なつみである。04年は後藤真希、松浦亜弥とのユニット「後浦なつみ」で出場が決まっていたが、直前になって自身のエッセイ集などに、あちこちから「パクリ」があったことが発覚。
「たくさんありすぎて、何を使ったのかわからない」
なんとも取り乱したコメントを残したが、これにより紅白も辞退。ゴマキとあややの2人だけでの出場は、なんとも気の抜けたものになった。
翌05年、4年連続の出場を決めた夏川りみは、自虐的にこうコボしたものだ。
「私、4年続けて『涙そうそう』しか歌わせてもらってません」
森山良子・BEGINとのユニットを含めて同じ曲で4年連続は、ゴールデンボンバーの「女々しくて」(12~15年)と並ぶ珍記録であった。
10年に「トイレの神様」で初出場した植村花菜は、新人ながら会見でこんな注文を。
「9分52秒の長い歌ですが、どこも削るとこがないので全部歌わせていただきたい」
これにかみついたのがご意見番・和田アキ子だった。
「どんな歌だって削るところはないよ!」
そして植村は、たった一度きりの出場に終わる。最後は、北島三郎の「50回出場の節目で勇退」が話題となった13年のこと。大トリの「まつり」を前に、AKB48の大島優子がまさかの唐突なサプライズ発表。
「この場をお借りして言いたいことがあります。私、大島優子はAKB48を卒業します」
御大の勇退はかき消され、翌日のスポーツ紙も圧倒的に大島の記事が大きい。その場では批判しなかった北島だが、しばらくたってポツリと漏らす。
「昔なら(私事を紅白で発表は)考えられなかった。おかしいといえばおかしい」
こうして“芸能界の秩序”は静かに崩壊してゆくのか──。