師走から正月にかけて、食べすぎや飲みすぎで太りやすくなる時期です。食べすぎが気になる方は飲み会がある場合に朝と昼を軽めにしたり、翌日の食事を抑えるなどでカロリー調整をして「食べすぎた」分を減らせば体重的にはプラスマイナスゼロとなります。
さて、今回は「脂肪」に関するお題です。同じ肥満でも「内臓脂肪が増えていく」のと「皮下脂肪が増える場合」に大別されます、どちらがより健康のリスクを高めるでしょうか。
一般的に、皮下脂肪は女性に、内臓脂肪は男性につきやすい脂肪と言われています。最近では「メタボ」と呼ばれるようになりましたが、その基準はウエストにあります。男性は90センチ、女性は95センチを超えるとメタボとされています。つまり、内臓脂肪型の肥満は、皮下脂肪型肥満よりもメタボリック症候群になりやすく、男性にメタボの割合が多くなる傾向にあるということです。
皮下脂肪は見分けるのが簡単です。腹筋に力を入れて、上からつまむと爪先で腹筋に触れますが、その時、腹筋の上にあるのが皮下脂肪です。つまんだ際に腹筋がどこにあるかわからない人は皮下脂肪が厚いということです。皮下脂肪をつまみ、腹筋に触れられるのにウエストが太い人は内臓脂肪がたまっています。内臓脂肪は文字どおり内臓の周りにつき、手ではつかめないが、おなかが出ているというタイプの人が該当します。
専門家の間では、皮下脂肪=「定期預金」、内臓脂肪=「普通預金」と言われています。皮下脂肪は一度たまると減らしにくく、消費することが難しい脂肪です。逆に内臓脂肪はたまりやすいが減らすのも簡単で、運動時に燃えやすく、減りやすい脂肪です。
脂肪が増えることで最も怖いのは「血管が硬くなること」です。血管に脂肪がついて詰まり、硬くなった結果、血栓ができやすくなり、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞につながります。
この点で、皮下脂肪より内臓脂肪のほうが大病につながりやすいと言えます。
ただし皮下脂肪も動脈硬化のリスクがないとはいえません。食べ物は腸から吸収されて血管を通り、皮膚の下に届くと脂肪として皮下にたまります。1回は血管を通るため、皮下脂肪といえども安心できません。
減りやすい内臓脂肪も減りにくい皮下脂肪も、減らすにはダイエットしかありません。食事を減らすのはもちろん、運動で燃やせるのが内臓脂肪です。対して皮下脂肪ダイエットにはウオーキングなどの有酸素運動に筋トレなどの無酸素運動を加えると効果的です。
メタボの人がよけいな内臓脂肪・皮下脂肪を落とそうと思ったら、少なくとも2~3年はかかります。そもそも「分厚くつかめる肉があり、つかんだ状態でおなかも出ている」という状態は、黄信号を通り越して赤信号なのです。根気よくカロリー計算をして定期的に運動し、揚げ物やアルコールの摂取量を減らしてダイエットをしてください。
お手軽な方法としては、脂肪吸引も考えられるかもしれません。しかし、医師としては絶対に勧められません。腹の一部分に穴をあけて脂肪だけ上手に吸引する技術はなく、神経や血管も吸い取られてしまうからです。脂肪吸引により、その周囲の感覚がなくなってしまう可能性があるのです。きれいに腹を開いて、ピンセットで脂肪を1つずつ取り除くならまだしも、掃除機のようなものを突っ込むとなれば、最悪の場合は命に関わります。
痩せたいなら食事制限と運動しかありません。ダイエットでズルをすることはできないのです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。