芸能

萩本欽一「決して拳を振るわなかった大先輩 東八郎さん」(2)

失恋をバネに芸に邁進した

 失恋した僕を慰めて、救ってくれたのも東さんでした。

 僕は一人の踊り子さんが好きになりました。髪が長くてかわいくて、何よりも目がパッチリとして大きいところが、タレ目の僕には魅力的でした。

 当時の僕は19歳で、彼女は2歳年下の17歳。劇場は先輩が多いし、踊り子さんも僕より年上で、唯一の年下は彼女だけ。何だか、彼女の存在がすごくうれしかったんです。

 とはいっても、恋愛経験ゼロの僕は彼女と口をきくことすらできません。舞台の袖から彼女の踊る姿を見て、胸をときめかせていました。

 たまに目と目が合ったりすると、もうドキドキ、ドギマギです。

 そんなある日、僕は先輩に買い物を頼まれ、楽屋を出ようとしました。すると、その女の子が僕に声をかけてきたんです。

 僕に対して初めて声をかけてくれたわけですが、彼女の言葉は、「坊や、私にもついでにチリ紙買ってきて」

 ショックでした。僕はペーペーで、皆から「坊や」と呼ばれている存在でした。たまに舞台に出してもらっていましたが、半人前にもなっていません。

 それに比べると、彼女は一人前の踊り子さんです。

「年下でも、使い走りをしている僕よりは、舞台で踊っている彼女のほうが偉いんだ」

 確かに理屈ではわかるんですが、納得できないんです。ほれた女性から「坊や」と呼ばれたことに、打ちのめされた思いでした。

 東さんは僕の恋心を以前からよくわかってくれていたようです。失意の僕に、次のような話をしてくれました。

「いいか欽坊、お前は若いから女の子にほれるのは当然だ。でもね、これだけは覚えておきなよ。芸人っていうのはね、うまくなったら、女の子は何人でもほれてくれる。女の子にほれてもらいたかったら、うまくなることだ。早く舞台に出て、お客さんを笑わせることだ。

 芸人はね、女の子から『ハンサムだわ』とか、『性格が好きなの』なんてほれられちゃダメなんだよ。『舞台がいいわ。あなたの芸にほれたの』。そう言ってほれられなきゃダメだ。

 欽坊、うまくなれ! ほれてもらいたかったら、モテたかったらうまくなれ!」

 その言葉を聞いて僕はドキッとしました。使い走りの僕に女の子がほれてくれるわけがないんです。彼女から見れば、僕は半人前のただの「坊や」です。

 それ以来、僕は仕事の時、女の人の顔を見ないことにしました。顔を見るから、大きな瞳とか、美しい姿にほれてしまうんです。

 だから、女の人の顔を見ないで、とにかくうまい芸人になる努力だけをすることにしたんです。それがいつの間にか癖になってしまいました。

 この癖ってよくないですよー。

 テレビに出るようになって、吉永小百合さんとか、松坂慶子さんとか、いろんな女優さんと一緒に仕事ができるようになりました。でも、いまだに顔をまともに見れないんです。

 ただ、泉ピン子さんに初めて会った時、この話をしたら怒られました。

「何よ、欽ちゃん! 私の顔はまともに見てるじゃない。私も女優よ!」

 ごめんなさい、ピン子ちゃん!

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