僕が司会を担当した、歌手のスカウト番組「スター誕生!」(日本テレビ系・1971年10月スタート)からは数えきれないほどのスター歌手が誕生しました。
多すぎて、顔や名前を覚えきれないほどです。
川中美幸さんとテレビ局で会って「はじめまして」と言ったら、「嫌だぁ、覚えてないんですかぁ? 私『スター誕生!』の決戦大会にも出てるんですよ」って。
中森明菜さんも覚えてないんです。デビューして「欽ちゃんのどこまでやるの!?」(テレビ朝日系)にゲスト出演してくれた時、本人から「私、『スター誕生!』出身です」と聞かされました。
「髪が長かったよね、確か」
って言ったら、
「そうです。覚えてくれてたんですね!」
って言われましたが、本当は覚えてないんです。明菜ちゃん、当てずっぽうでごめんなさい!
「スター誕生!」が始まった頃の僕は30歳。10代の女の子の顔をマジマジと見たり、話しかけたりするのは、てれくさくて恥ずかしかったですから。
そういうわけで、番組が生んだ最大のスター、山口百恵さんとも、ほとんど会話を交わしてません。
1つ印象に残っているのは、ステージの袖、真っ暗な空間にジッと立つ百恵さんの後ろ姿です。
その日の収録には百恵さんを含め、番組出身の新人歌手と西城秀樹さんが出演してくれました。
秀樹さんの歌のコーナー。他の新人さんは楽屋でスタッフたちとおしゃべりをしています。
百恵さんだけでした。ソッと1人だけ楽屋を抜け出し、暗いステージの袖に。ステージに立つ秀樹さんをジッと見つめています。
たまたまその後ろ姿を見た僕は、百恵さんの静かだけど強固な魂を感じました。
「今に見ていろ、私だって!」
僕に伝わってきたのは、百恵さんのそういう思いです。
「この子は他の女の子とは一味も二味も違う」
番組の審査員だった作曲家の都倉俊一さんからもこんなエピソードを聞きました。都倉さんが、
「欽ちゃん、山口百恵って、とんでもないものになるぞ!」
興奮気味に僕に言います。
「他の女の子はさ、教えてて『音が違うぞ!』と大声でどなると泣くんだよ。山口百恵は違う。泣かないんだよ。オレの目をジッと見て『ハイ!』と答える。ちっとも動じないんだ。
あの子は何かをまっすぐ見てる。度胸の持ち方が違うんだよ。もう一度言う。とんでもないものになるぞ!」
73年「としごろ」で歌手デビューした百恵さんはたちまちトップアイドルに。森昌子さん、桜田淳子さんとともに「花の中三トリオ」と呼ばれました。