スポーツ

新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「WWFと全日本&新日本が合体した東京ドーム」

 1月4日のジャイアント馬場と坂口征二による全日本プロレスと新日本プロレスの協調路線発表、2月10日の新日本の東京ドームで両団体の対抗戦が実現して1990年の日本プロレス界は年初めから大いに盛り上がったが、その間にも大きな出来事があった。

 WWF(現・WWE)の総帥ビンス・マクマホン・シニアが全日本の「新春ジャイアント・シリーズ」最終戦の1月28日、後楽園ホールのリングに電撃登場して馬場とガッチリ握手。

 翌29日にはキャピトル東急ホテル(現ザ・キャピトルホテル東急)ではビンス、馬場、坂口のWWF、全日本、新日本の3団体のトップによる合同記者会見が行われて、3団体共催の「日米レスリング・サミット」開催が発表された。

 NWAが2月10日の新日本の東京ドームでグレート・ムタとの一騎打ちが決定していたリック・フレアーの派遣キャンセルを1月11日に新日本に通告してきたのは、この3団体合同イベント開催を事前に知ったためだとも言われている。

 WWFは84年1月にホーガンが世界王者になったのを機に世界制圧に乗り出した。他団体のテリトリーには手を出さないというアメリカ・プロレス界の暗黙の了解を破ってNWA、AWAの各テリトリーに侵攻。その土地のトップスターを引き抜くことでほぼ全米を掌握し、88年にはヨーロッパもサーキットコースに組み入れた。

 日本に関しては85年10月に新日本との業務提携が終了すると、日本侵攻用のビデオ3本を製作してフジテレビ、TBS、テレビ東京にアプローチしたが、思うようにコトは進まなかった。

 独自のプロレス文化を持ち、言語も違う日本への進出には侵攻ではなく、日本の従来の団体の協力が必要と考えたビンスは、90年4月13日の東京ドームを押さえた時点で全日本、新日本に協力を要請する親書を送ったが、どちらからも返答がなく、お手上げ状態になってしまった。

 そこでWWFが日本とのパイプ役として白羽の矢を立てたのは82年から84年の3年間、全日本で現場責任者として手腕を振るった佐藤昭雄だ。

 佐藤は、レスラーとしては中堅クラスだが、長いアメリカ生活で選手の売り出し方やマッチメークなど、バックヤードのプロレス・ビジネスを学んだ。

 帰国後に全日本の現場を任されると、ジャンボ鶴田を日本人初のAWA世界王者にし、天龍源一郎を第三の男として売り出し、トップに仕立て、三沢光晴や川田利明などの有望な若手を育成。85年夏に日本から家族が住むカンザス州カンサスシティに戻っていた。

 89年11月、アラバマ州ハンツビルの大会に招待された佐藤は「選手として契約すると同時に、日本のマーケット開拓にも関わってもらいたい」とビンスに依頼され、89年1月の「新春ジャイアント・シリーズ」に帰国。選手として参加しながら、WWFの使者として馬場と交渉を重ねた。

「自分は今、ビンスから全権を任されたWWFの人間ですけど、佐藤昭雄としては全日本プロレスと話をまとめるべきだと思っているので、馬場さんにウンと言ってほしいんです。でも、もし馬場さんがNOと言うのであれば、その足で新日本に行きます。それが最終的な自分の覚悟ですから」と迫る佐藤に、馬場は「それなら新日本も一緒に、3団体でやろうか? 新日本には俺が話をする」と返答したという。

 かねてからWWFが単独で日本に乗り込んでくることに危機感を抱いていた馬場としては「日本の団体は一枚岩である」と牽制したかったのかもしれない。

 佐藤が馬場を口説く材料として用意したのは、アンドレ・ザ・ジャイアントとのタッグ結成。新日本のトップ外国人だったアンドレとはアメリカのリングで絡むことはあっても、日本では組むことも戦うことも不可能だった。馬場にとってもファンにとっても、大巨人コンビの実現は夢だった。

 新日本は、現場責任者の長州力が「新日本同士の試合で他の2団体と勝負したい」と佐藤に申し入れて、2試合を提供する形に。

 WWFからの条件はホーガンと日本のトップ外国人のシングルマッチ。

 当時の全日本のトップ外国人は言うまでもなくスタン・ハンセンだが、ハンセンに傷をつけたくない馬場は「今のトップはゴディである」と主張して、メインはホーガンVSゴディに。

 だがWWFは納得せず、大会前日にハンセンに変更。このあたりは様々な団体間の駆け引きがあったようだ。81年に新日本で一緒に過ごしたホーガンとハンセンの再会は、ホーガンがアックス・ボンバーで勝利。負けはしたが、急遽対戦相手を引き受けたハンセンも男を上げた。

 大会のベストバウトは日本スタイルの天龍源一郎とアメリカン・プロレスの権化ランディ・サベージの異次元対決。全日本とWWFのまったく違うスタイルが見事に融合、5万3742人の大観衆を熱狂させた。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

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