リオ五輪で女子初の個人種目4連覇の偉業を成し遂げたレスリング・伊調馨選手の告発文書が意外な波紋を広げている。当初、栄和人監督のパワハラ問題かと思いきやその矛先は、レスリング協会へも向けられ隠蔽体質からさらなる疑惑まで露呈。なにやら昨年の貴ノ岩暴行騒動に端を発する相撲協会のゴタゴタとソックリではないか。二大公益法人のあまりにもお粗末な暗黒体質に迫る。
メダルラッシュで終幕した平昌五輪の歓声が醒めやらぬ間に、レスリングの白いマットをドス黒く染める醜聞が噴出した。アテネ、北京、ロンドン、リオと4大会連続で金メダルを獲得したレスリング・伊調馨(33)が、日本レスリング協会から陰湿極まるパワハラを受けていたという告発状が今年1月に内閣府・公益認定等委員会に提出されていたことが発覚。スポーツ紙運動部デスクが語る。
「告発状に記されたパワハラの中身は、師事する男性コーチへの指導禁止、男子選手との練習禁止、出稽古する警視庁への出入り禁止の3点です。全て来たる20年の東京五輪で史上初となる5連覇に期待がかかる伊調選手の練習環境を脅かすものばかり。しかも、告発文ではこれらの圧力をかけていたのが、伊調選手の恩師であり、強化本部長の栄和人氏(57)だというから悪質極まりないパワハラと問題化したのです」
ところが、この報道を受け、レスリング協会は、
「当協会が伊調選手の練習環境を不当に妨げ、制限した事実はございません。同様に、当協会が田南部力男子フリースタイル日本代表コーチに対し、伊調選手への指導をしないよう、不当な圧力をかけた事実もございません」
と、即座にパワハラを完全否定。しかし、その翌日、林芳正文科相が一転、聞き取り調査を行うと発表すると、ようやく重い腰を上げ、冒頭のように告発状を受け、第三者機関に委託しての聴取に乗り出すことを決める始末だった。このゴタゴタぶりはさながら、貴ノ岩暴行騒動で当初、だんまりを決め込んだ相撲協会と同じではないか。
しかも騒動後は擁護派と非難派の二手に分かれて足の引っ張り合いの泥仕合になったことも記憶に新しい。
実際、レスリング協会副会長の谷岡郁子氏はツイッターで、
「口下手で不器用な熱血漢。欠点もあるし、誤解されやすいけど、選手が大事で陰湿ではない」
などと栄氏を一方的に擁護したかと思えば、文書作成の張本人であると名乗りを上げた元日本代表コーチの安達巧氏は、
「内容は間違いなく事実。否定を続ける協会に対して正々堂々と訴えるために、自分の名前をきちんと明かすことにした」
と宣戦布告。まるで「貴の乱」の再現ドラマを見ている気がしてくるが、それにしてもレスリング協会の事なかれ対応に首をかしげるのは女子レスリング関係者だ。
「協会は即座にパワハラを全面否定しましたが、伊調選手やコーチなど当事者に一切調査することもなく、ヤッツケの声明を出すことに疑問を感じます。最初から結論ありきで、選手を守ろうという姿勢は一切感じられない。不都合な真実があっても隠蔽さえすればよしという姿勢は、“かわいがり”など度重なる暴力事件が起こっても報道で表ざたになるまでは明らかにしない相撲協会と酷似している。善良さ、透明性を求められる公益法人の資格を有する団体とは思えない、悪劣な隠蔽体質だと断言できます」
しかも、肝心の当事者である栄監督は雲隠れ。その後、日常生活を送るのが困難な心身衰弱状態にあることが発表された。
「かつての教え子からの反撃でショックを受けたのは間違いないでしょうが、鉄拳制裁も辞さない熱い指導法で知られる栄氏が、表に出られないほどとはにわかに信じられない。協会の発表では栄氏からの申し出で17日からの女子W杯への帯同を辞退したとのことですが、メダリストを大量に育てている栄氏を協会がかくまったというのが真実ではないか」(前出・女子レスリング関係者)
飼い犬にかみつかれた傷がよほど深かったのか、都合が悪くなると雲隠れする様まで角界にそっくりなのだ。