一連の騒動を受け、演芸評論家の高山和久氏は言う。
「香葉子さんは初代三平亡きあと、一門をまとめ、落語界全体に影響力を持つ人であることは間違いない。ちょっと食い違いがあった結果、大きな騒動になってしまった、という気がします。仮に先に話を通していれば、別の結果になったかもしれません」
一方、5月に迫っている襲名披露に向けて準備に余念がなかった好の助側も手痛い出費を被ることになるという。
寄席関係者も証言する。
「真打に昇進すると、名前入りの手ぬぐい、扇子を作って関係者に配るんですが、これがだいたい2000個ぐらい作る。扇子一つの原価が1000円だとしても、それだけで200万円ですよ。あとは、ごひいき衆が作ってくれる1枚数十万円の“後ろ幕”。作り直すのにもう一度先方に出させるわけにはいかないから持ち出しになるし、作ってくれた人の顔も潰してしまうから二重によろしくないですね」
そこで好楽、好の助の師弟に話を聞こうとすると、
「ゴタゴタが続くと、真打お披露目という“お祝い事”にとってもよくない。二人のコメントはスポーツ紙でお答えしたことが全てで、これ以上の取材はお受けしていません。昇進をおめでたく見守っていただけたら幸いです」
対する“海老名家”サイドはどうか。今月9日、香葉子さんが主宰する慰霊イベントには、正蔵、香葉子さんともに出席したものの、報道陣の質問には無言のまま会場をあとにしている。お得意の「どうもすいません」でお茶を濁したら確実に炎上するであろうこのご時世、無言は一つの答えかもしれないが‥‥。
「今は互いにしこりがあるかもしれないが、なんとか双方にメリットがある形にして、これを機に落語界がにぎやかになってほしい」
と語るのは、落語立川流真打の立川談慶だ。師匠の故・立川談志には常々「囃されたら踊れ!」(話題になったらそれに乗っかれの意)と薫陶を受けてきた談慶は、両者とも、今こそ“踊る時”だと語る。
「『九蔵の扇子が買える!』とか、『この落語会に来れば真相が聞ける!』とか、洒落になるような方向で落としどころを見つけてほしいです。笑える“win-win”な関係にきっとなれる。好の助さんにとっても、自分の名前を自分で大きくするチャンスなのは間違いないですから」
これまでにも名跡を巡る襲名問題は、なかなか一件落着といかない落語界。「恩讐の彼方に」なるのはいつの日のことだろうか。