元祖スポ根ドラマ「柔道一直線」(69~71年、TBS系)の一条直也役で、一躍青春スターの頂点に駆け上がった桜木健一(69)。そんな彼が、柔道着から背広にネクタイへガラリと大変身を遂げたのが、「刑事くん」(71~76年、TBS系)だ。
「当時海外で『刑事コロンボ』が大ヒットしていたのを見て、その現象に目をつけたTBSのプロデューサーが僕で刑事モノを、と考えたことがきっかけでした。ただ、桜木健一で刑事モノじゃ若すぎるから、刑事のあとに“くん”をつければいいんじゃないかと。さらにそのためには新米刑事がよいと」
桜木がそう語るように、従来の刑事ドラマとは一味違う若い刑事、新米、さらに30分番組という異例尽くしで「刑事くん」はスタートを切った。番組は好評で、後期こそ主演は桜木から星正人に変わったが、足かけ6年に及ぶ放映のほとんどは、桜木演じる三神鉄男が主人公を務めた。
あくまでも、大人の目線に耐えうるドラマとして本格派刑事路線が敷かれたのだが、それでも、青春スター・桜木を意識したキャスティングが目立ったのも事実。特にそれは豪華ゲストや共演者に表れた。
「ゲストではショーケンやジュリーにも出ていただきました。さらに、ライバル役として仲雅美さん、三浦友和くん、宮内洋さんと、今思えば、当時の若手スターがそろってますよね」
萩原健一は本作のゲスト出演を機に「新人刑事」の企画を各所に持ち込み、それが「太陽にほえろ!」の原型となった。
さて、二代目のライバル役となる三浦友和との間には興味深いエピソードがあるという。
「三浦くんがしょっちゅうスタジオに連れてきていたロックミュージシャンがいた。僕の友達です、と紹介もされてね。ただ、僕はあまりロックに詳しくなかったので、どういう人かはわからなかった。ああ、三浦くんの友達かと」
その友達というのが、三浦の高校時代の同級生・忌野清志郎だったのである。さらに三浦との間にこんな話も。
「脚本家の市川森一さんのアイデアで、ドラマの中で新人歌手を出演させようと。そうした中で出演したのが、森昌子さんや小柳ルミ子さん、そして山口百恵さん。もしかしたらですけど、その時が三浦くんと出会いのきっかけだったのかもしれませんね」
このように、桜木のイメチェン、人気者のゲスト、さらに新人歌手の登用と番組は人気を博すが、当の桜木自身には、ある不安が芽生えてしまう。
「今思えば若気の至りなんですが、何年も新米刑事をやっていていいのかなと。それをマネージャーに言ったら、あっさり『そう思うならお辞めなさい』って」
このこともあり、当面、刑事モノはいいや、という彼のもとに、再びオファーが来る。それが大人の刑事モノとして人気だった「特捜最前線」(77~87年、テレビ朝日系)だった。
「主演の二谷英明さんが大ケガをされて、そのテコ入れでという話だったんです。それならばと受けたのですが、程なく二谷さんが復帰された。それはいいのですが、テコ入れ的要素がなくなり、扱いも“普通”になってしまった。あれっ、おかしいなと(笑)」
それでも、ドラマ自体は和気あいあいと撮影が続けられたという。そんな刑事ドラマの時代について、桜木はこう振り返る。
「特に『刑事くん』に関しては新米刑事という一つのひな型は作れたかな、と思います。そういった意味でも、印象深い作品ですね」
数々の刑事ドラマに隠されたDNAは今も受け継がれている‥‥。