かの「昭和の爆笑王」も、草葉の陰で苦い顔をしていることだろう。落語界きっての「名家」が猛反発し、人気落語家弟子の真打昇進にケチがつくという無粋な話が持ち上がったのだ。我々にとってはマクラも何もなしにいきなり「サゲ」を聞かされたような内紛劇だが、はてさてその本題やいかに‥‥。
「好楽兄さん、ぼくは兄さんの怒ってる顔は見たくありません。鷹揚に笑ってる顔が好きなんです。もめるのはやめましょう」
そう“仲介”を買って出て、三遊亭好楽(71)に電話をかけてきたのは、他ならぬ大阪の落語界の重鎮でもありタレントとしても超売れっ子の笑福亭鶴瓶(66)だった。
長寿番組「笑点」のレギュラーでもおなじみの好楽の三番弟子にあたる三遊亭好の助(35)の真打昇進が思わぬ「落語界二分」の騒動となっているのだ。
前代未聞の珍事となった「襲名トラブル」をベテラン演芸記者が解説する。
「好楽は、弟子の好の助の襲名に際して、かつて自分が名乗っていた『林家九蔵』を襲名させると発表。ところが、これに待ったをかけたのが、笑点で共演している林家三平(47)の兄である林家正蔵(55)と母の香葉子さんだった。いわば、好楽にしてみれば“身内”とも言える存在の家族からダメ出しをされたことで、本人はいたく傷心。しかも本来なら根回しも終わっていたと思われていただけに、落語界でも大騒動になっています」
今回の騒動があらわになったのは、3月3日にスクープした「スポーツ報知」紙上だった。好楽の「落語の世界で一度、ゴタゴタした名前はよくない。かわいい弟子の門出だし、将来を考えて、(襲名せずに)好の助のまま真打に昇進させることにしました」と断念したコメントとともに、「(海老名家がある)根岸に行ってお話したけれど(海老名香葉子さんに)『ダメですから』と言われた」と交渉が決裂したことも明かされていたのだ。寄席関係者が振り返る。
「そもそも好の助の襲名が発表されたのは、昨年末に開かれた『五代目圓楽一門会』。実はこの時点では、香葉子さんの耳にも入っていなかった。そして年が明けた1月31日付の『東京新聞』に好の助が登場。九蔵襲名についてもインタビューでしゃべっていた。その内容も三遊亭から林家に亭号を変えて真打になるということで、それを目にした香葉子さんが仰天。襲名について初めて知り、『どういうことですか?』とクレームを入れたそうなのです」
2月に入り好楽が海老名家に出向き、3時間かけて説得するも了承を得ることができず、スポーツ紙上で襲名断念を発表したというのが、コトの真相のようなのだ。
「林家側の対応は一貫して厳しい姿勢だった。正蔵も『三遊亭に行かれたんだしその一門で林家はおかしいでしょう。(落語)協会を出ていった方ですし、落語界で悪しき前例を作るのはよくない』と“先輩”の好楽に対しても厳しい言葉を放ったと言います」(前出・寄席関係者)
人気落語家の名跡は一門の了承を得るのが慣例。好楽は先代の正蔵の遺族や、兄弟子であり「笑点」で共演している林家木久扇(80)にも相談。了解を取り付けたことで襲名発表にこぎつけたのだが、足元で思わぬ“虎の尾”を踏んでしまったのだ。さる落語家が言う。
「林家で言えば、そのトップは香葉子さん。何か林家で決め事があれば、おかみさんが、一門の真打を呼んで意思統一するのが、林家の掟です。いわばこの騒動も香葉子さんの一存で決まったこと。正蔵師匠は当初はあまり襲名に反対ではなかったようですが、香葉子さんの意向をくんで一門として発言したようです」