広島の強豪・広陵はこれまで3度の春選抜優勝を成し遂げていて、高校野球ファンには“春に強い広陵”として特に知られている。
そんな広陵が初めて春の選抜を制したのは、戦前の1926年第3回大会。まだ旧校名の広陵中の時である。
エース左腕の田岡宏一(法大)を中心に好守好打が持ち味のチームで、初戦はこの夏の甲子園の優勝校となる静岡中(現・静岡)が相手だったが、まったく問題にせず11‐1で圧勝。準々決勝は和歌山中(現・桐蔭)に4‐3、準決勝は柳井中(現・柳井=山口)に5‐4と接戦をものにして決勝戦へ。そして決勝戦では信州の強豪・松本商(現・松商学園=長野)を7‐0で一蹴し、見事初優勝を遂げたのであった。
その後、春の選抜では3度、決勝戦へ進むもいずれも準優勝止まり。なかなか勝ちきれなかった広陵が2度目のVを飾ったのが初優勝から何と65年後の1991年だった。小土居昭宏(立正大)と塩崎貴史(日石)の投手陣2本柱を中心とした堅実な守備と手堅い攻撃がチームカラー。初戦の三田学園(兵庫)との試合こそ9回終了時に降雨で3‐3の引き分けとなったものの、この再試合を8‐2で圧勝すると、2回戦は春日部共栄(埼玉)を4‐2、準々決勝では鹿児島実を5‐2、準決勝では市川(山梨)を5‐1で降して危なげなく決勝戦へと進出。その決勝の相手は、のちにプロ野球では打者に転向して活躍した上田佳範(元・中日など)がエースの松商学園(長野)。65年前の決勝戦と同じ顔合わせとなったのだ。
試合は一進一退の攻防を繰り返し、9回表を終わって5‐5の同点。その裏の広陵の攻撃も2アウトランナーなしとなり、延長戦突入かと思われたが、ここから2死1、2塁のチャンスをつかむと続く打者が右越えのサヨナラヒット。6‐5のサヨナラ勝ちで松商学園を返り討ちにして、65年ぶり2度目の選抜制覇を果たしたのである。
これまでの2度の優勝は“全員野球”で勝ち取った感が強かった広陵だったが、3度目の優勝となった2003年第75回春の選抜は一転、タレント集団がもたらした栄冠となった。
前年春夏に続く3季連続出場となった西村健太朗(読売)と白濱裕太(広島)のバッテリーに加え、トップバッターに俊足好打の上本博紀(阪神)を擁した大型チームで、初戦から旭川実(北海道)に8‐1、遊学館(石川)に6‐0、近江(滋賀)に4‐2、東洋大姫路(愛媛)に5‐1と相手を寄せ付けない勝ちっぷり。横浜(神奈川)との強豪校対決となった決勝戦でも成瀬善久(東京ヤクルト)と涌井秀章(千葉ロッテ)という相手の強力投手陣に20安打を浴びせ15‐3で圧倒し、見事3度目の選抜制覇を成し遂げたのだった。
この広陵、春の選抜では優勝と準優勝ともに3回を誇っているが、対する夏の選手権では昨年も含めて準優勝の4回のみ。いまだ優勝経験はなく、いまや高校野球の不思議の一つとしてファンにお馴染みとなっている。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=