関東地方1都6県の中で、唯一ずっと夏の選手権での優勝経験がなかったのが埼玉県勢だった。その埼玉県に初めて深紅の大優勝旗がもたらされたのが昨年、2017年。第99回大会のことである。県勢初の快挙を成し遂げたのが花咲徳栄。投が先発・網脇彗(東北福祉大)と抑えの清水達也(中日)の2枚看板。打は俊足巧打の西川愛也(埼玉西武)を中心とする強力打線が自慢で、投打のバランスが絶妙なチームに仕上がっていた。
花咲徳栄は初戦から相手を圧倒する。開星(島根)に9-0。1回表に3番・西川の右前適時打で1点を先制すると強力打線が効果的に得点を重ね、投げては網脇‐清水の継投で開星打線を零封した。
続く日本航空石川戦では初回に一挙に5点を先制し、主導権を握るとその後も追加点を奪い、計9得点。相手の反撃を網脇‐清水の継投で3失点に抑え、9-3と2戦目も大勝したのである。
3回戦でも前橋育英(群馬)相手にまたも初回から猛攻を見せた。1死二塁から西川が左中間突破の先制適時三塁打を放つと、その後2本の長短打に2四球を絡めて4得点。結局、計13安打を放ち10点を奪うと網脇‐清水の投手陣も11安打を浴びながら4失点にまとめ、10-4で関東勢対決を制したのであった。
この猛打はベスト4進出をかけた準々決勝でも止まらなかった。この大会で初めて初回での先制点を逃したものの、2回表に2年生ながら4番を打つ野村佑希のソロ本塁打で先制すると、5回までで7点を奪い、対戦相手の盛岡大附(岩手)を完全に圧倒した。9回表にも3本の長打などで3得点。守っては網脇‐清水が6安打しか許さず、10-1の完勝でついにチームとしては春夏通じて初の甲子園ベスト4へと駒を進めることとなったのである。
その準決勝は東海大菅生(西東京)相手に壮絶な死闘となった。何と1回裏に先発の網脇みずからの暴投やエラーなどでいきなりの2失点。今大会初めて先制を許し、追う展開となってしまったのである。だが、強力花咲打線は2回に1点、3回に2点、そして4回にも1点を取り、計4点。対する東海大菅生も網脇を攻略し、3回までに4得点。7回を終わって4-4の同点となっていた。その試合が8回表に動く。エラーと2四死球で掴んだ2死満塁のチャンスから2点適時二塁打が飛び出し、花咲徳栄がついに2点をリードしたのだ。
だが、粘る東海大菅生も土壇場9回裏に、4回途中からリリーフ登板の清水を攻めて3本の長短打で6-6の同点に追いつく。結局、試合が決まったのは延長11回だった。4本の長短打を集中させた花咲徳栄が決勝点となる3点を奪い、決着をつけたのだ。放ったヒットは花咲徳栄が13安打、東海大菅生が12安打。まさに打ち合いを制しての決勝戦進出であった。
埼玉県勢悲願の夏の甲子園優勝をかけての決勝戦。相手は名門・広陵(広島)。この大会、1大会個人最多本塁打となる6本を放った中村奨成(広島東洋)が主軸を打つなど広陵も強力打線で勝ち上がってきており、打ち合いが予想されたが、試合は初回に西川の2点適時打で先制した花咲徳栄が一方的に主導権を握る展開に。結局、計16安打で14得点。網脇と清水の投手陣も13安打を喫しながら要所を締め、4失点に抑えた(注目の中村には3安打を浴びたものの、本塁打と打点を許さなかった)。14-4での圧勝だった。この大会での花咲徳栄打線は6試合で計70安打61得点。まさに“打力”を全面に押し出しての超攻撃的野球で、埼玉県勢として初めて夏の頂点へと駆け上がったのである。今年は北埼玉代表として出場し、2回戦で横浜に惜敗。埼玉県勢として2年連続の夏の大会優勝の夢は8月16日に二松学舎大付と対戦する浦和学院(南埼玉)に託されている。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=