貴乃花親方を意のままに操る「指南役」と見られ、また自身と父の名を所属力士に授けた辻本氏とはいかなる人物なのか。あらためて教団施設の周辺で取材を進めると、地域住民からこんな証言が得られた。
「40年くらい前に先代が始めた時は、小さい社(やしろ)とプレハブ小屋だけで、ちょっとずつ拡張して今みたいに大きなっていかはった。豆まきだけやのうて他にもいろいろ催し物があって、赤飯やおみかんをタダで配ってはるから、その時だけちょっと行ってみる、いう人もおるみたい。入信した人? このへんで聞いたことないですなあ」
教団の公式サイトによれば、施設がある宇治市の広岡谷は〈1万年前、龍神が御降臨になった御聖地〉であり、〈「素直な心、感謝の心、慈愛の心」を実行できれば、よい世界を取り戻すことができるという啓示を受け〉初代祭主の源治郎氏が73年に本殿を建立したという。
日頃の信仰活動、入信資格などは謎のベールに包まれているが、
〈ガンが消えた!〉
〈大津波が庭の直前で止まった!〉
といった類いの体験談が寄せられているのを見ると、どうにも首をかしげたくなるのだ。
施設を訪れていた60代の男性信者に話を聞くと、目を潤ませてこう話した。
「30年ほど前のことです。幼稚園生だった長男が車の大事故に巻き込まれて‥‥。でも、たまたまその2カ月前に大先生にお祈りしていただいてたんですよ。あれがなかったら今頃息子の命はありませんでした」
彼が言う「大先生」は源治郎氏を指し、現祭主の辻本氏とともに、畏敬の対象となっている。
冒頭の式典開催中、鳥居前で交通整理をしていた作務衣姿の男性によると、
「宇治というのは『宇宙を治める』と書きます。宇治には昔、数ある神様を統べる偉い龍神様がいらっしゃいました。大先生も二代先生(辻本氏)も、その龍神様からお告げをいただける奇跡の人。診ていただいたら大病も治るんです」
実際に救われたという信者はいるようだが、「やや日刊カルト新聞」を主宰するジャーナリストの藤倉善郎氏はこう解説する。
「教団の公式サイトや祭主の著作を見るかぎり、神道をベースにした“オカルト教”という位置づけができます。右寄りの思想で『とにかく日本はすごい国なんです』と持ち上げる一方で、伝統的な神道の歴史観を否定する一面も確認できます。鼻につくのはその時々のはやりの終末思想などを織り交ぜる“ごちゃまぜ感”。また、祈祷で『病気は必ず治る』と見る者に思わせる宣伝コピーは、あまりに極端で危険です」
龍神総宮社の境内には、高額の寄付をした信者の名前が彫られた石碑があった。見ると1億円以上の大金を寄進した2名を筆頭に、3000万円以上が1名、2000万円以上が5名という具合に高額奉納者の名がズラリ。こうした太っ腹な信者に支えられてきたためか、近くにある辻本氏の自宅を訪ねると、ひときわ目を引く大豪邸が現れた。地元不動産業者によれば、
「敷地は目算ですが1400平米ぐらい。地価を計算して家屋の建設費も上乗せしたら、全部で2億円前後にはなると思います」