今年の春の選抜は、奈良県からは智弁学園が出場したが、県勢の春夏の甲子園優勝といえば、天理が先駆けである。夏は1986年第68回大会と90年第72回大会の2度制しているが、春の選抜優勝は97年まで待たなければならなかった。
その第69回大会で春16度目の出場となったチームは、左腕エースの小南浩史(同大ー東邦ガス)と背番号3の快速右腕・長崎伸一(元・千葉ロッテ)、投の二本柱が看板だった。初戦は古豪・徳島商に苦戦の末、5‐4でサヨナラ勝ちを収めたのだが、この勝利で勢いがついたのか、続く2回戦は浜松工(静岡)を7‐0で一蹴。小南による被安打7の完封劇であった。長崎も負けてはいない。準々決勝で西京(山口)相手に被安打7の1失点で完投。8‐1と快勝劇の立役者となった。
迎えた準決勝。相手は公式戦47連勝中という、この大会で断トツの優勝候補だった上宮(大阪)。天理はエース・小南が先発し、上宮のエース・山田真介(元・読売など)との投げ合いとなった。5回表に左中間へのソロを打たれて上宮に1点を先制されたが、7回裏に2死からタイムリーが飛び出し、天理は同点に追いつく。そして続く8回裏。天理は2死無走者から、長崎の遊ゴロが相手ショートの悪送球を誘って出塁。この絶好の場面で左中間を破るタイムリー三塁打が飛び出し、これが決勝点となったのだ。守っても小南は絶妙の配球で強打の上宮打線をかわし、奪った三振は9を数えた。結局、5安打1失点に抑えての完投勝ちだった。こうして投打ともに粘りが身上の天理が上宮のスキを突いて見事な逆転勝ちで、奈良県勢としては初めて春の選抜の決勝戦へと駒を進めたのである。
迎えた決勝戦の相手は春夏連覇した1966年以来、31年ぶりの決勝進出で意気上がる中京大中京(愛知)。実はこの前年9月の練習試合で9‐3で破っているだけに、是が非でも負けられない相手である。
この大一番・天理のマウンドを守ったのが長崎だった。長崎は4安打を浴び1点を失った5回裏を除くと一度も連打を浴びることがなかった。中盤のピンチを巧みな牽制でしのぐと終盤は本来の球威を取り戻し、毎回の11奪三振。攻撃陣も相手打線の8安打を下回る7安打ながら、2回表と4回表は中軸が出塁し、下位打線で返した。7回表は下位の2安打でつかんだチャンスを確実に活かし、2得点。先制、中押し、ダメ押しと理想的な試合運びで終わってみれば4‐1と相手を寄せ付けず、初めての春決勝戦で紫紺の大旗を勝ち取ったのだった。左腕の小南と右腕の長崎。完投能力のある2人の投手を備えていた天理は勝つべくして勝ったのである。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=