高校野球甲子園大会で、夏の選手権では過去6回もある大会連覇の記録が、実は春の選抜ではまだ過去2例しかないという事実をご存知だろうか。
夏の大会連覇は第7回大会から第8回大会和歌山中(現・桐蔭)が最初で、以下、第15回大会から第16回大会の広島商、第17回大会~第19回大会にかけて史上唯一の3連覇を果たした中京商(現・中京大中京=愛知)、第25回大会~第26回大会の海草中(現・向陽=和歌山)、第29回大会~第30回大会の小倉中⇒小倉(福岡)、そして記憶に新しい第86回大会~第87回大会の駒大苫小牧(南北海道)と、6チームが達成している。
だが、春の選抜はというと、戦前1校、戦後1校のわずか2チームしかないのだ。その1チーム目が第6回大会から第7回大会の第一神港商(現・市神港)。29年の第6回大会はのちに国鉄スワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)初代監督となる西垣徳雄がエースとして活躍、決勝で広島の広陵中(現・広陵)を3対1で降し初優勝。翌30年の大会は豪腕・岸本正治(元阪急)がエース。決勝で四国の強豪・松山商(愛媛)を6対1で圧倒して堂々の連覇を達成した。この時、岸本は全4試合すべてで2ケタ三振を奪い計54奪三振。これは73年の第45回大会で作新学院(栃木)の江川卓(元読売など)に破られるまで43年間もの間の大会記録だった。
2チーム目は第53回大会~第54回大会のPL学園(大阪)。特に81年の第53回大会は、のちに甲子園きっての名将とよばれる中村順司監督が監督として甲子園デビューを飾った大会。エース・西川佳明(元・南海など)と3番打者でキャプテン・吉村禎章(元・読売)が投打の主軸で、印旛(現・印旛明誠=千葉)との決勝戦では0対1で負けていた9回裏に鮮やかな逆転サヨナラ勝ちを収めた。これがPL学園史上初の春選抜制覇となったのである。続く82年の第54回大会はエース・榎田健一郎(元・阪急)を軸に勝ち進み、決勝戦では二松学舎大付を15対2と圧倒。堂々の大会2連覇を達成したのである。
そして今大会。史上3校目の春連覇を狙って智弁学園(奈良)が大会初日の第3試合に登場する。チームを牽引するのは、昨年の優勝チームでも中軸だった福元悠真、太田英毅の2人。今回、前評判は決して高くはないが、それは初優勝を果たした前回大会も同様だった。それに智弁学園にはわずかながらポジティブ要素がある。それは過去連覇を果たした2校が兵庫県と大阪府ということで、ともに近畿代表だったという一致点だ。
奈良県の智弁学園が、PL学園以来、35年ぶり史上3校目の春連覇達成に挑む。
(高校野球評論家・上杉純也)