今や大谷は、自身が“最低保証の選手”などとは違うことを結果で証明して見せている。メジャーリーグに詳しい野球解説者の佐野慈紀氏も、この大活躍ぶりには脱帽する。
「投手・大谷の速球は確かに速いが、メジャーでは各地でマウンドやボールに違いがあり、最初は苦労するのではと懸念していました。田中将大(29)、ダルビッシュ有(31)でさえ、最初はコントロールに戸惑った。にもかかわらず、わずか2試合目であそこまで低めに球を集められるとは驚きました。そのうえ、あのスプリットが加われば、メジャーの強打者でも簡単には打ち込めない」
とはいえ、オープン戦での大谷はまったくの別人。投手として2試合登板で自責点8と打ち込まれ、防御率27.00、打撃も打率1割2分と振るわなかった。
いったい、この短期間での激変には何があったのか。
「大谷のピッチングは、ハイファストボールと低めのスプリットで高低に投げ分ける投球術です。160キロの浮き上がる軌道のフォーシームと、天井から落ちてくるようなスプリットが歯車のようにかみ合えば、三振がバタバタと取れる。ところがアリゾナのキャンプでは、空気が乾燥しているせいか、球が滑ってスピードは出ても回転のキレがなく、右打者の頭に行く投球がたくさん見られました。それがシーズン入りするとボールに指が引っかかり、フォーシームが安定した。相乗効果によってスプリットで三振を取れるようになったんです」(友成氏)
佐野氏は投手・大谷の適応力にも注目する。
「確実にチャンスは与えられるはずなので、オープン戦の結果はそれほど気にしていませんでした。もともと対応力が高い選手ですし、メジャーのマウンドは日本より硬いので、足の長い投手の場合、リリース時に力が入って低めに落差のあるフォークが決まる。かつての野茂英雄(49)がデビューした時のフィーバーと重なります」
打者としても3試合連続ホームランを含む活躍で、DHとして堂々たる成績を残している。
「ヒンスキー打撃コーチの助言もあり、足を高く上げるハイレッグキックからスリ足に変えた。メジャー投手は日本より平均スピードが5キロ速く、おまけに日本のようにテイクバックもなく上半身の力だけでズドンと投げる豪腕投手が多い。イチローが振り子打法を封印したのと同じ理屈です。シンカー系の沈むボールに対してゴロ打ばかりだったのが、球種を見極めてから打ち出すようになりました」(友成氏)
一方、キャンプから大谷を見続けた関係者らは、公式戦の打席で躍動する姿を思い描いていたという。
「たとえオープン戦で結果が出なくても、実際に大谷のスイングを見ていた人たちは、のちの爆発を信じて疑わなかった。毎日のフリー打撃で、主力のプホルス(38)やトラウト(26)より飛ばしてチームメイトを納得させ、米国人記者にも『飛距離はメジャーでも5本の指に入る』と言わしめたんですからね」(メジャー中継関係者)