はしかが全国的に流行の兆しを見せています。台湾からの旅行客が発端となり、5月中旬現在、沖縄県で約100人、愛知県で20人、東京都で10人の感染が確認されています。日本国内では10年前に小中学生の予防接種を増やしたことから患者数は減少していましたが、今回の場合は沖縄で感染した人が東京と愛知を訪れたことで、感染者が増えているとのことです。
では、ここで質問です。子供の頃にはしかの予防接種をした人は、あらためて予防接種をすべきでしょうか。
空気感染するはしかの感染力はインフルエンザの10倍とも言われています。ウイルスの粒子が空気中を漂い、マスクをしていてもウイルスを吸い込んでしまうため、免疫のない人が感染すると、ほぼ確実に発症します。そして、はしかに感染すると10日ほどで咳が出て、その後、39度以上の高熱や発疹に見舞われます。
WHOによると全世界で1年間に約9万人が死亡しているそうですが、医療が発達した日本国内での致死率は1%以下。ただし、気をつけてほしいのは妊婦です。はしかにかかると流産か早産などのリスクがあります。はしかが疑われる症状が出た場合、病院ではなく保健所に連絡し、保健所の指示に従って医療機関を受診してください。
感染が発覚すると一定期間、隔離されます。発疹が消えても5日ほどは感染の可能性があるため、3週間ほど仕事ができなくなる場合もあります。予防接種を子供の頃に受けた人でも、年数が経過すると免疫が低下し、抗体が消えていることがあります。
こうしたリスクがある以上、予防接種をしないまでも抗体検査はするべきです。血液検査を行うだけではしかの免疫があるか否か、すぐにわかります。保険がきかないので有料になりますが、検査費用は3000~6000円です。免疫がないとわかった時点でMRワクチン(はしかと風疹のワクチン)を打っても遅くはありません。自治体や病院にもよりますが、ワクチン接種費用は1回8000円~1万5000円、2回接種すると1万5000円~3万円。感染した場合の危険性が高い以上、高額とは言えないでしょう。
特に検査を受けるべきは「人が集まる場所」に勤務する人。病院はもちろん、空港やコンサート会場、コンビニなどに勤める方は感染の可能性も高まります。また27歳以上の場合、国際基準の「2度の予防接種」をしておらず、若い世代より感染率は高いと言えます。
子供の病気に大人がかかると重症化しやすくなるのもやっかいな点です。おたふく風邪を例にすると、子供の場合は熱や耳の腫れなど軽度の症状で済みますが、大人がかかると熱も高くなり、合併症も重くなります。はしかの場合も肺炎や脳炎、中耳炎などの合併症を起こしやすく、合併症にかかる確率は30%と言われています。
海外旅行先で感染がわかるとさらに大変です。アメリカでは風疹でも伝染病扱いされますので、旅行の予定がある場合は特に検査を受けるべきです。旅行先のハワイで風疹を発症した日本人家族が強制隔離させられ、予定を過ぎても帰国できないうえ、超高額の医療費を支払わされたという事例があります。
血液検査をする際は、はしかと風疹だけではなく、おたふく風邪と水疱瘡の検査もして、足りない免疫を補充してください。ちなみに帯状疱疹が出やすい大人は、水疱瘡の免疫が低下している可能性が高いです。
子供の頃、はしかにかかったか、予防接種をしたかどうか定かでない人もいるでしょう。母子手帳に記載があるので、大人になっても手元に置いておくことをオススメします。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。