横綱・鶴竜の連覇、新大関・栃ノ心の誕生に沸いた夏場所。その裏で決定的な印象を与えたのが大横綱・白鵬の凋落ぶりだった。貴ノ岩暴行騒動で瓦解した「モンゴル互助会」なきあと、ガチンコ相撲全盛にあって誰の目にも力の衰えは一目瞭然。2020年までの現役続行を望む白鵬だが、もはや“死に体”同然なのか──。
「力が落ちているんだろうな」
横綱審議委員会の北村正任委員長が白鵬の取組について意見を求められると、自然と口をついて出た言葉が、大横綱の落日ぶりであった。
本来なら休み明けの本場所で、優勝争いにこそ絡まなかったものの、11勝4敗と星勘定の面では引退云々が喧伝される成績ではなかった。
だが、角界OBはもとより、相撲ファンの目から見てもその衰えぶりは一目瞭然だ。
まず目を疑ったのが、6日目に対戦した前頭2枚目の阿炎(錣山部屋)との取組。初顔合わせとなる対戦だったが、新入幕から2場所連続で2ケタ勝利中の阿炎は、師匠の寺尾を彷彿させる回転の速い突っ張りで白鵬を攻めたてた。
すると、土俵をあっさりと割ってしまい、完敗という結果に。相撲評論家の中沢潔氏も夏場所の取組に、時代の変化を感じ取ったという。
「阿炎に完敗した姿に白鵬の力の衰えを感じました。ですが、それ以上に目を疑ったのが、12日目の栃ノ心との対戦。力相撲は右四つのガップリとなって、最終的に栃ノ心が寄り切って勝ちましたが、この勝負で、私は白鵬も引退間近だと思いました。八角理事長も驚いた様子でコメントを出していましたからね」
本来なら白鵬にとって右四つがっぷりは必勝パターンだった。ところが、栃ノ心は強烈な引き付けで白鵬を圧倒。何もさせなかったのである。そして、渾身の寄り身でこれまで25連敗と勝ち星のなかった栃ノ心が初めて白鵬に土をつけたのだった。これには、貴ノ岩の暴行騒動事件以降、一貫して白鵬の擁護派だった相撲協会トップの八角理事長も、
「白鵬のこんな負け方を初めて見た。力負けで何もできなかったね。栃ノ心が力をずっと出し続けられたのは稽古のたまもの。立派だ」
と新大関の誕生をバックアップしたのだった。
だが、この対戦を前に、水面下では不穏な動きもあった。ベテラン相撲記者が言う。
「場所の趨勢を左右するような大勝負の前には怪情報が流れやすいのですが、取組前日に栃ノ心が負けるのでは‥‥という噂が駆け巡ったのです。しかし結果的には、かつてモンゴル互助会の一員と見られていた栃ノ心が、白鵬に引導を渡した形となった。この事実からも、日馬富士が引退して、モンゴル互助会が今までのように機能しなくなっているのは間違いないでしょうね」
もはや、本来の実力どころか、モンゴル互助会の威光すらかげりを見せた夏場所だったのだ。