相撲部屋関係者がさらに続ける。
「つまり、大事な取組で星を回すという互助会のルール、闇の掟を守らなかった貴ノ岩が、白鵬に“かわいがられる”ことを恐れた、ということでしょう。貴ノ岩の師匠、貴乃花親方は現役時代、いわゆるガチンコ力士として知られた人物。今もその姿勢を貫いており、だから貴ノ岩には『(モンゴル人の同胞であっても)他の力士とはつるむな。相撲は真剣勝負だから、なれ合うな』と、ふだんから諭している。そんな師匠に心酔する貴ノ岩は言いつけを守ったにすぎませんが、もう一方からすれば、“ルール違反”だというわけです」
そもそも潔癖かつ厳格な相撲道を追求する貴乃花親方にしてみれば、モンゴル勢とは水と油。
「ある種、純粋主義的な貴乃花親方ほど、『嫌モンゴル』な人は他に知りません。モンゴル力士たちのふるまい、考え方が相撲界を蝕んでいる、と考えているんです」(相撲担当記者)
日馬富士が暴行に及ぶ直前、白鵬が貴ノ岩の日頃の態度を注意していたとされるが、同胞より師匠の言いつけを守る貴ノ岩を取り込もうとしていたとも言われるのは、そうした互助会事情があるからなのだろう。
さらに、もう一つの伏線もあった。
「横綱に勝ったし、これからは僕らの時代が始まる」
騒動のきっかけは、錦糸町のクラブで貴ノ岩が発したこのセリフにもある。
9月下旬、酒に酔った貴ノ岩はモンゴル出身の若い衆を説教していた。声を荒らげ、ヒートアップしたため、同席していたモンゴル出身の元幕内力士と元十両力士らが、
「他にお客さんもいる。力士が大声出したら怖がられるからやめなさい」
と、なだめたという。
しかし、貴ノ岩の興奮は収まらず、モンゴルから来日していた白鵬の友人もいる前で「俺は白鵬に勝った」「あなたたちの時代は終わった」「これからは俺たちの時代だ」などと放言したのだ。暴行当日、その様子を伝え聞いていた白鵬が貴ノ岩に事実関係を問いただし、やがて暴行へとつながっていく──。あの暴行事件は、そうした背景のもとで起きた、ある種の「内輪ゲンカ」だったのだ。
「とはいえ、互助会トップに反旗を翻した貴ノ岩は、もうモンゴルコミュニティーに戻ることはもちろん、相撲界でやっていくのも難しいのではないか、と指摘する声もある」(前出・相撲担当記者)
やく氏も、
「『俺たちの時代だ』と語ったとされる貴ノ岩ですが、彼は時代を形成するような大物ではないですよ」
と言って突き放すのだ。
元力士の維新力氏が、嘆息しながら言う。
「貴ノ岩は白鵬、日馬富士、鶴竜の世代とは違う。物質的にも豊かになった世代。考え方、感じ方も彼らとは異なります。角界からはいろんな声が聞こえてくる。またぞろ、八百長問題と絡めてコメントする関係者も出てきています。せっかくここまで人気が回復した相撲界に、もしそんな騒動が持ち上がればアウトです」
貴乃花親方も嫌悪する、「疑惑のモンゴル互助会」。公益法人としての相撲協会は、暴行事件の幕引きとともに、こうした実情にも目を向ける必要があるのではないか。