2018年現在、大阪府の高校野球界は大阪桐蔭と履正社がその勢力図を2分しているが、履正社が台頭する前は大阪桐蔭とライバル関係にあったのは、名門・PL学園だった。
その両校が初めて夏の大阪府予選の決勝で対戦したのが2004年。この年、大阪桐蔭は2年生ながら4番に座る平田良介(中日)が打線を牽引し、投手陣も3年生の3本柱に加えて2年生には辻内崇伸(元・読売)がおり、最少得点差が3点という盤石の強さで勝ち上がってきていた。対するPLは、4回戦以降は接戦続き。特に準決勝では序盤の8点差を8回裏の一挙12得点でひっくり返すという綱渡りの戦いぶりだった。投手陣も中村圭と1年生の前田健太(ロサンゼルス・ドジャース)という2人で凌いでの勝ち上がりだった。
その最後の決戦でPLは3年生エース・中村を先発マウンドへ送る。対する大阪桐蔭は2年生左腕・辻内。序盤は大阪桐蔭が平田の先制適時二塁打などで4‐1とリードしたが、PLが中盤から反撃。5回裏にキャプテン・山田祐輝の適時打で1点を返すと,8回裏には4番・中倉裕人の右越え適時二塁打で同点に追いついた。試合はこのまま両軍投手陣が勝ち越し点を許さず、延長15回、4‐4で引き分け再試合となったのである。PLは15回表に1死一、三塁のピンチを迎えたが、先発した中村が気迫の投球で後続を連続三振に仕留めたのが大きかった。この試合は台風10号の影響で強風が吹き荒れ、雨による二度の中断もあり、試合時間は4時間9分にも及んでいた。
そして再試合。PLは1年生の前田、大阪桐蔭はエース・岩田雄大の先発マウンドで幕が上がった。PLは前日の試合後に学校で2時間の打ち込みを行ったのだが、その成果がいきなり現れる。初回に松嶋祥平が左翼へ先頭打者本塁打を放つと3回表には3番・神戸宏基の右中間への3ランなどで4点を追加。6回表を終わって8‐2とリードしていた。だが、大阪桐蔭も6回裏に2番・橋本翔太郎が前田から満塁本塁打。一気に2点差に迫ってきた。
追う大阪桐蔭の流れになるなか、それでも前田は崩れなかった。前日に214球を投げ切った中村から「最後までお前が投げろ」と送り出された7回以降は9回裏の1失点のみに抑えたのだ。味方打線は7回から9回で5得点を挙げ、結局13‐7で逃げ切った。2日間で計24イニング、7時間にも及んだ死闘を制した決め手となったのは、のちのメジャーリーガーとなる甲子園名門校1年生の強靭な精神力だったのである。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=