前出・阪神担当記者も、これに同意する。
「機動力を実践しようとしても、足を使ってかき回せる選手がいない。いや、足の速いのはいますが、塁に出るレベルがあまりに低い。それに和田監督は各スポーツ紙を読み、OBの大物評論家の意見、批判を気にして、その主張に沿う采配をするような人。目指すのは守りの野球と言いますが、じゃあ何で福留孝介なんて獲ろうとするのか」
野村氏は和田監督について、こうも書いている。
〈実は、和田が監督になる直前のバッティングコーチ時代、(中略)不安を覚えたことがあった〉
その不安とは何か。1点を追う8回一死一、三塁のチャンスで、代打・上本博紀。和田打撃コーチは上本に耳打ちした。ネット裏で評論していた野村氏は、阪神担当記者に「何を指示したのか」と尋ねると、
〈「思い切っていけ、でした」という。まさか、と思った。(中略)私なら最低でも、「相手は大ピンチだ。初球は内角からは入ってこないぞ。外の球に絞っていけ」と指示する。(中略)「思い切っていけ」は指示ではなく、「どうすれば思い切っていけるか」が指示である〉
和田監督が進む方向を見失ったのは、ビジョンがまったく見えなかった真弓明信前監督の失敗が大きい、と野村氏は続けてコキ下ろす。
〈とにかく型にはめたがり、そのワンパターン、思考の硬直ゆえに星を落とす。11年の開幕当初、久保田智之→小林宏→藤川球児の並びにこだわるなどしたのがその典型だった。(中略)真弓監督は、全知全能を駆使して采配を振るうことを放棄していたようにさえ見えた。(中略)真弓監督はまず、継投を型にはめた。そして攻撃でも、相手にお構いなく、「自分が決めた台本通り」に事を運ぼうとした〉
そして、星野政権以降、岡田、真弓、和田監督と何も継承されず、プレースタイルに一貫性がない、と斬り捨てる。「阪神野球」というものがないことが、好調期が長く続かない原因だというのだ。
今季5位に終わった現有戦力にも、野村氏はダメ出しを連発する。まずは打率2割5分、9本塁打に終わった4番の新井貴浩だ。前出・阪神担当記者は、
「今年は(右肩の)故障もあったから、情状酌量の余地はあります。痛みがあって、出したバットを止めようと思っても止められなかったり。まぁ、総じて野村野球のレベルには達していないわけですが」
とかばうが、知将は辛辣である。
〈新井は「プロとしての限界」にぶつかったのである。(中略)打点を残しながらもチャンスに弱いイメージが消えない新井の欠点は「フルスイングの勘違い」にあると指摘してきた。試合の状況、カウントなどを考慮に入れず、常に両肩、両腕を力ませたままでフルスイングする。結果、外角低めのクソボールにも見える変化球にみっともなく体勢を崩されて空振り三振を喫して、顔をこわばらせて首をかしげながらベンチに戻ってくる。(中略)新井は「ボールカウントの性質」をまるで理解していない〉