テリー マー君がメジャーに行くことについてはどう思われますか。
野村 いい選手がどんどんアメリカへ流出して行ったら、日本のプロ野球はどうなるんだっていう思いはありますよ。一流選手なんてそんな簡単に出るもんじゃないし、一流の選手が一流を育てるという効果もあると思うんですね。だからONが、江夏、村山、平松、松岡と、いろんな各球団のエースを育てていったわけです。江夏は僕も南海で一緒にやったことがありますけど、「ONを抑えることが生きがいだ」とよく言ってましたよ。
テリー そうか、生きがいがなくなっちゃうということですね。
野村 そうそう。
テリー まあ、確かにマー君がいなくなっちゃったら、マー君を打ってやろうという目標がなくなっちゃいますもんね。
野村 まあ、ああいう、いいピッチャーはなかなか出ないんでね。
テリー 僕なんかは、どっちかというとFAで行けばいいなと思っているんですが、監督はポスティング制度はどういうふうに見てるんですか。
野村 まあ、今のようなことをやっていたら、完全にメジャーのマイナー化になっちゃいますよ。日本のプロ野球は選手がいなくなって、レベルがどんどん下がる。それは問題だと思うんですね。それよりも、メジャーの連中が「ワールドシリーズ」って言うじゃないですか。米国しかないのに何が“ワールド”だと思うわけですよ。
テリー ワールドカップだったら全世界ですからね。
野村 そういうことを昔から感じていたんですけど、真のワールドシリーズっていうものをね、これから考えていくべきじゃないかなと思いますよ。
テリー それはそうですね。そんな中でマー君がメジャーに行ったら、何勝ぐらいできそうですか。ダルビッシュが今年13勝だったんですけど。
野村 いやあ、ダルビッシュは感性と頭脳に優れているから、マー君よりかなり上ですよ。
テリー あ、そうですか。感性と頭脳というのは、どういうところで感じておられるんですか。
野村 順応が早いというか、すぐメジャーになじんでいるじゃないですか。
テリー 英語も使ってますしね。
野村 彼は、そういう非常にいい感性を持っているように僕は見ていますけど。やっぱり「感じるから考える」んで、人間の最大の悪は何であるか。それは「鈍感である」という、まさに名言だと思うんです。野球選手は鈍感な人が多いですから。中学、高校、大学とね、アマチュア時代、お山の大将でやってきてるでしょう。そういう下積みとか、苦労がないから、どうしても感性が鈍くなるというか、育たないと思うんですよ。やっぱり、若いうちの苦労は買ってでもしろと昔の人から、我々もよく言われましたけど、まさにそうだと思いますよ。
テリー そうすると、マー君が向こうに行って、苦労しながらなじんでいくと、それによって、一皮も二皮も剥けるっていうことがありますよね。ということは、メジャーに行ったほうがいいっていうことですか。
野村 それは本人の人生ですからいいんでしょうが、日本のプロ野球で育った人間としては、何か複雑な思いですね。