唯一の日本人横綱・稀勢の里(32)が、引退の剣が峰に立たされている。すでに協会広報部は見限り、「引退のコメント」まで用意しているありさま。はたして奇跡の復活はあるのか──。
なにしろ、8月31日の稽古総見では鶴竜、豪栄道、栃ノ心を相手に4勝4敗。豪栄道と激しく突き合い、押し出す場面もあったが、評論家の北の富士勝昭氏は手厳しく言い放った。
「軽い。右上手を取って胸を合わせられればいいが、そうならないと動きについていけない」
9月4日、尾車部屋で行われた二所一門の連合稽古でも、豪栄道相手に3勝8敗と大きく負け越し、なんと芝田山広報部長はつい本音をこう吐露したのだ。
「広報部として引退という方向で考えている」
秋場所が「引退場所」になると言わんばかりだ。
八角理事長はずっと稀勢の里を擁護していたが、相撲協会もついに見放したようだ。
それでも相撲ジャーナリストの杉山邦博氏は言う。
「大丈夫。私は悲観的な見方をしていない。場所前の稽古では(痛めた)左を使うことをやっていた。相撲勘を取り戻すことは容易ではないが、結果はあとからついてくる」
一方で、稀勢の里はメンタルも非常に心配されている。相撲ジャーナリストの中澤潔氏が話す。
「稽古総見のあとのコメントで、『(あと1週間あるので)楽しみですよ』と語っていましたが、復調めざましいならともかく、稀勢の里の相撲はよくないという見方があった。他人事のように語る姿勢は理解に苦しみますね。進退をかける心構えができていない」
そもそも師匠・隆の里が興した鳴戸部屋は、角界きっての猛稽古で知られた。
相撲関係者が言う。
「先代親方が亡くなって7年。今の親方(元幕内隆の鶴)は名ばかりの親方で、自分では土俵上のことが判断できない。稽古は全て稀勢の里が決めたようにやる。8場所連続休場している間にいろいろできたはずなのに、序盤の鍵となる、苦手の阿武咲と稽古するようになったのも最近のこと。もし、先代が存命であったなら、もっと厳しく指導するはずですよ」
先代親方、隆の里は「土俵の鬼」と呼ばれた故二子山親方(初代若乃花)の愛弟子。
「隆の里なら『山寺にこもれ。滝に打たれろ』というようなことくらいは言うと思います。厳しい指導者が亡くなってしまったことが稀勢の里の悲劇です」(中澤氏)
整体治療院「ごっつハンド」オーナーの元小結・三杉里氏も指摘する。
「左胸から上腕にかけての筋肉を断裂した。ならば下半身を鍛えるため、休場中も長い夏巡業でも、四股、すり足、テッポウを十分やるべきでした。下半身を鍛えれば腰も下りるのですが、しっかり稽古したという話が聞こえてきませんね。体も締まりがなかった。本場所の勘は戻りにくいので、心配ですね」