好角家の漫画家・やくみつる氏が語る。
「希望的観測を持ちうる好材料がない。細かく区切って見ていくと、序盤で2連敗ならダメでしょうし、5日目までに2勝3敗でもダメ。そればかりか現時点で、フル出場とか、優勝に絡むレベルではないのです」
気負い込んで出場したものの、序盤から連敗してあっさり引退した横綱はゴマンといた。
他人事のように自分を語る稀勢の里の姿勢からは、ケガが完治せず、そのため自分の相撲が取り戻せない現状に、ヤケになっている様子がうかがえる。
「そもそも横綱に昇進できたのも、いい意味で予想を裏切ったと言える。ケガをして取り口を変えろというような評論もありましたが、融通が利く器用な相撲ではないんです。場所前、左を使う全盛期を彷彿させる相撲もあって、それに期待する声も出ましたが、ここは開き直って活路を開くしかないと思いますね」(やく氏)
実際、尾車部屋で見せた左を使う相撲には親方衆も好意的で、尾車親方などは、
「あの相撲だよ。俺は悪くないと思う。序盤を4勝1敗くらいでいけば、気持ちも乗ってくる。やってみないとわからない」
と、同じ一門の親方として、引退論を封印してみせる。
とはいえ、8場所連続休場の間に、周囲の見方は変わってきた。先の相撲関係者が指摘するには、
「正直言って、先場所、御嶽海が優勝し、豊山も三賞を獲得する活躍だった。稀勢の里に代わる日本人力士が出そろったことが稀勢の里復活にこだわらなくなった理由でしょうね。本人も、そうした空気に加え、一向によくならないケガにイラだちを超えて、開き直ってしまっている。それが自嘲気味のコメントになっているのではないですか」
この危機は本人がいちばん痛感していることかもしれない。
中澤氏がこぼす。
「結局、横綱に昇進してからは、出ても途中休場が続き、千秋楽まで出たのは初優勝したわずか1場所だけでしょう。ファンとしてはなんとか復活してほしいが、このままでいけば、悲劇の横綱で終わってしまう」
師匠・隆の里は千代の富士の全盛時代にあって、糖尿病を克服して横綱に昇進した。優勝経験は4回しかないが、そのうち2回が全勝優勝という記録を残している。千代の富士の天敵として君臨し、千代の富士をして「隆の里がいたからこそ、自分はここまでやれた」と言わしめたほどだ。
その愛弟子・稀勢の里はこのまま終わってしまうのか──。
やく氏は言う。
「もう一度、予想を裏切ってほしいんですけどね」
秋場所真っただ中である。