稀勢の里(30)と貴乃花親方(44)──。12日に開幕した大相撲春場所の土俵下では、二所一門が輩出した新旧横綱が急速に接近している。絆を深めるその背景には、2人の境遇と「野望」があった。
「稀勢の里は30歳で横綱に昇進しましたが、非常に若々しい相撲を取る。私は彼の時代が5年間は続くと見ています。正代、御嶽海、小柳など世代交代を迫る力士も次々に生まれていますが、その牙城はそう簡単に崩れないでしょう」
元NHKアナで相撲ジャーナリストの杉山邦博氏が絶賛する新横綱について、
「思えば審判部長時代、3場所で33勝に届いていないと周囲が押しとどめるのも聞かずに(関脇から)大関に推挙した時から、貴乃花親方の稀勢の里にかける思いは非常に大きかった」
と語るのは、稀勢の里と貴乃花親方の両者を知る相撲関係者である。さらに、
「それに応えてみごと大輪の花を咲かせた稀勢の里に、貴乃花親方が期待する気持ちはますます強くなっている」
今年の初場所で優勝し、横綱昇進を決めた稀勢の里は、2月の大相撲トーナメント大会でも、苦しみながらも平幕貴ノ岩を突き落として初優勝した。その時、貴乃花親方は稀勢の里に、「よかったな」と声をかけている。相撲ジャーナリスト・中澤潔氏が解説する。
「愛弟子の貴ノ岩を破った自分にかけてくれた言葉に、稀勢の里は感激もひとしおでした。現役時代、貴乃花親方はハワイ出身の横綱(曙、武蔵丸)と死闘を繰り広げた。そして今、稀勢の里はモンゴル人横綱3人(白鵬、日馬富士、鶴竜)と必死に闘っている。彼らとの死闘を乗り越えてつかんだ栄冠だからこそ、かつての自分と重ね合わせ、稀勢の里に共感を覚えているんでしょう。ファンの目は稀勢の里と3人のモンゴル人横綱との戦いに注がれている。全員をなぎ倒して優勝すれば、大相撲人気は絶大なものとなります」
2人の接近を後押しするのは、それぞれの境遇の共通点。そして貴乃花親方が積極的に稀勢の里の取り込みを仕掛け、ひそかにタッグを組もうとする理由は、角界を牛耳ることにあった。元力士が言う。
「実はこのところ、貴乃花一門は急激に勢力を拡大しているんですよ。一門に所属する千賀ノ浦、立浪、大嶽、阿武松の各部屋に加え、最近は別の一門の湊、佐渡ケ嶽、伊勢ノ海、時津風、九重の各部屋も『隠れ貴乃花派』として、実質的に一門に加わりました」
ちなみに稀勢の里が尊敬するかつての師匠、先代鳴戸親方(元横綱隆の里)は、貴乃花親方の父、元二子山親方(元大関貴ノ花)にとって、同じ部屋の弟弟子だったというつながりもある。
貴乃花親方の野望が爆発するのは、稀勢の里が横綱としての栄華を極めたあと、引退して親方となり、部屋を興した時だ。
「貴乃花親方は角界再編で多数の部屋を傘下に収める巨大一門となり、相撲協会理事長の地位に座る。そしてすっかり手なずけた稀勢の里とともに、角界を支配するのです」(前出・元力士)
八角理事長はうかうかしていられない。