待ちに待った「横綱・稀勢の里」の誕生で、気の早いファンは新横綱と対決する、「次の日本人横綱」のさらなる誕生を望んでいる。いったい、誰がその夢をかなえてくれるのか。
大阪での春場所を前に、稀勢の里(30)は先場所11勝をあげて関脇に復帰した弟弟子の高安(27)と17番の稽古をし、6勝11敗。激しい突き押しで一気に前に出る一番もあったが、立ち合いで押し込まれたり、互いにまわしを引いた状態から寄り切られるなど、本来の力強さが見られなかった。やや心配になるが、相撲ジャーナリストの中澤潔氏は言う。
「今のメディアは稽古の内容よりも勝ち負けを大きく報道する。本場所ではないのですから、横綱はここを矯正したいとか、これから本場所に向けて調整していくのが稽古場。あまり気にすることはありません。それよりも、高安がよかった。私は次の日本人横綱の有力候補と見ています」
所属する田子ノ浦部屋は弟子が数人の小部屋だが、高安はすでに実力が大関クラス。横綱と毎日、存分に三番稽古ができるのは願ってもない環境だ。
「稀勢の里と高安は同じ茨城県出身で、気心も知れているうえ、2人は角界一厳しい稽古で知られた(かつての所属先である)鳴戸部屋で切磋琢磨した仲です。高安は番付がまだ下の頃、部屋から5度も脱走した経験がありますが、稀勢の里と同様に、鳴戸部屋の猛稽古に耐えられたからこそ、今があるという思いが強い。現在の田子ノ浦親方は遊び人で何の影響力もなく、2人は稽古場でも無視しているわけですが、かえってそれがいい」(ベテラン相撲記者)
素質、実力ともに抜群の高安が横綱を狙える逸材だというのである。
さらに中澤氏は、高安と並ぶ横綱候補として、東洋大出身のアマ横綱だった御嶽海(24)をあげる。
「学生相撲出身の横綱として知られるのは輪島です。ひと頃、学生相撲出身者は“作戦相撲”が多いなどと批判されましたが、プロの技術が落ちている今となっては、文句のつけようのないエリート。しかも、部屋経営のため、相撲の素養に関係なく肥満児を集めてくる現状を考えれば、学生相撲に目を向けざるをえない」
作戦相撲とは、立ち合いを合わせないといけないのに、自分十分になったらつっかけていったり、客に見せる意識が希薄な、立ち合いで変化する相撲などを指す。
御嶽海は本来、和歌山県庁に就職するはずだったが、「部屋を再興したいので、力を貸してほしい」と出羽海親方の説得を受けて入門した。出羽海部屋を継承したばかりの親方の、初の直弟子だったのだ。
「出羽一門は相撲協会で4人の理事を擁する最大勢力。その意味でも、一門から横綱が欲しい。出羽海部屋には昔からの相撲界のしきたりや風習を守り、じっくり育てる懐の深さがある。ここは、御嶽海に期待したいですね」(前出・中澤氏)
そしてもう1人、逸材がいる。時津風部屋の正代(25)である。前出・ベテラン記者が言う。
「正代は東京農大2年で学生横綱のタイトルを獲得し、幕下10枚目デビューの資格を得たものの、学業を優先して4年までいたため、その資格を失効してしまった。3、4年時ではタイトルを獲得できず、一般の新弟子同様、前相撲からスタートしました。が、新関脇まで17場所のスピード出世は史上2位の記録です」
相撲通の漫画家・やくみつる氏が絶賛する。
「とにかくスケールが大きい。一部には悲観的で自虐的なところをマイナスに見る人もいるようですが、逆に言えば、謙虚だということです。正代が大輪の花を咲かせるのもそう遠いことではないでしょう」