こうした悲惨な事態を避けるため、若い調教師は「社台詣で」にいそしんでいる。さる厩舎関係者が明かす。
「新しく調教師が誕生すると、原則的に1年間は見習いとなります(形式上は厩舎所属)。この間に社台のトレセンに行き、調教技術を学ぶ実務研修を受ける。期間は3カ月ほどでしょうか。ここで強いコネクションを作るのです」
このコネで、社台から厩舎に馬が回ってくる。厩舎関係者が続けて説明する。
「さしあたって、どうでもいいレベルの馬を預けてもらう。その馬を3着、4着ぐらいに持ってきたら、第一段階はクリア。次はワンランク上の馬を預けられます。そうやってステップアップし、そのうち馬主から『ウチにもダービーを獲れるような馬を回してくださいよ』と言われ、『じゃあ、社台に行ってみましょう』となる。こうして厩舎はどんどん栄え、社台も潤っていく。例えば武藤善則、戸田博文、加藤征弘、堀宣行調教師なども、デビュー当時から社台派でした」
ところが、敢然と社台抜きで頑張り抜いている調教師もいる。ディープスカイ(日本ダービー、NHKマイルC制覇)やローレルゲレイロ(高松宮記念、スプリンターズS制覇)、ヒルノダムール(天皇賞・春制覇)を管理した昆貢調教師だ。これらのGⅠ馬は、馬主も生産者も全て非社台系。それどころか、12年余りの厩舎経営の中に、社台系の馬を見つけることがほとんどできないほどだ。それでいて、コンスタントに年間20勝以上しているのだ。
これについて、昆師はこう言っている。
「日高地方にもいい馬はいるんだから、そういう馬をコツコツと探す。社台グループの馬ばかり勝ってたら競馬はおもしろくないでしょ」
昆師はまた、今どき珍しい、外国人騎手に頼らない調教師でもある。これまで乗せたのは5回あるが、そのうちの3回は抽選で騎乗馬が決まるワールドスーパージョッキーシリーズでのものだ。
調教師、厩舎の経営を左右するのが社台馬なら、騎手にもその影響は多大に及んでいる。12年12月いっぱいで、渡辺薫彦、芹沢純一、小林慎一郎、野元昭嘉、今村康成、鈴来直人騎手が引退し、調教助手に転身する。そのうち小林は音無秀孝厩舎、野元は松田博資厩舎と、いずれも社台グループの馬を数多く預かっている厩舎に所属していた。が、ここ数年は社台の馬にほとんど乗せてもらえず、成績も低迷していたのだ(今年、小林は0勝、野元は2勝。いずれも12月16日現在)。