カラオケ好きの読者も多いと思います。ふだんは声を出さない人が練習もせずに歌いすぎると声がかれることがありますが、ここで問題です。歌いすぎで声がかれるのと酒焼けするのとでは、どちらがノドに悪影響を及ぼすでしょうか。
カラオケの歌いすぎやコンサートで大声を出して声がかれるのは、声帯が炎症を起こしている状態です。病名としては、急性声帯炎と呼ばれています。誰しも経験しているかと思います。来院する競馬好きの患者さんが、たまに声がかれていたりするので「当たりましたね?」と尋ねると、うれしそうな顔をします。実際、翌日に炎症は治まり、声も元どおりになっているそうです。このように、休息をとり、吸入やうがいによる加湿を行えばすぐに治ります。
対して酒焼けとは、声帯ではなくノドの炎症で、病名は急性咽頭炎と呼ばれています。その原因は、アルコール分解のために必要な水分が奪われ、ノドが乾燥して炎症を起こしたこと。また、アルコールが直接ノドの粘膜を傷つける場合もあります。さらに、酔ってハイの状態になり、いつもよりしゃべりすぎて声が出なくなることもあるでしょう。
実は、タバコも酒焼けを悪化させる要因です。タバコを吸うとノドが乾燥しますが、そんな状態で酒を飲みながら声を出すので、声が出にくくなるのです。ましてや、お酒を飲むと喫煙ペースも早くなります。タバコと酒という二大要因が加わる分、酒焼けのほうが非健康的と言えるでしょう。
とはいえ、急性咽頭炎も3日もすれば元に戻ります。怖いのは、これが慢性化することです。例えば、スナックのママさんは客に勧められた酒を飲み、タバコを吸うので声がかれやすい職業と言えます。特にウイスキーやテキーラなどアルコール度数の高い酒を飲むほどノドを傷めやすく、ハスキーな声になります。食道ガンや喉頭ガン、咽頭ガンになる可能性も高くなります。
アルコールは、分解される際に発ガン性のあるアセトアルデヒドに変わります。これにより、食道ガンや喉頭ガン、咽頭ガンの発ガンリスクを高めます。また、これらの器官に発生するガンは、一人に複数発生するケースも多く見られます。酒とタバコのダブルパンチで多発ガンの危険性をさらに高めているのです。
酒焼けではないにせよ、大声を出す仕事は声帯を傷めやすくなります。例えば競馬や競輪の予想屋など、ハスキーな声の持ち主が少なくないですが、これも発声のしかたに原因があります。きちんと訓練をしたプロの歌手と異なり、腹からではなく声帯だけで声を出し続けるので、声帯の炎症が慢性化するわけです。選挙に立候補した候補者にも同じことが言えますが、一種の職業病でしょう。
とはいえ、カラオケは健康促進に非常に有効です。歌うことで汗をかき、血流がよくなるのはもちろん、声を出して歌うことで自律神経が刺激され、ストレスからも解放されます。歌詞を理解して歌うことで感情も豊かになりますし、脳が刺激されるので認知症の予防ができます。もちろん、カラオケが原因でガンになることなどはありません。声帯粘膜の血管が破れて内出血を起こした場合には、声帯ポリープになる程度です。最近では、高齢者の間でも人気の趣味となっているのもうなずけます。
ダンスや麻雀、釣りや園芸など、さまざまな趣味を仲間と楽しむと楽しい気分になるものです。多種多様なジャンルが存在する中、私が特におすすめするのもカラオケです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。