50代の患者さんから「父が胃ガンだったので、自分も検査を受けたいのですが、胃カメラ検査とバリウム検査のどちらを受けるべきでしょうか」との相談を受けました。
胃カメラ検査では、カメラのついた内視鏡を口から飲み込みます。喉から食道、胃、十二指腸と進みながら映像で確認していく検査です。カメラは胃の粘膜から1~2センチほどの距離まで近づくので、胃の中の色や凸凹、しわまで観察できます。異状があれば組織をつまんで再検査ができるなどのメリットもありますが、細部を局所的に見る検査のため死角ができ、全体を把握できずにポリープなどを見逃してしまう可能性があります。
対するバリウム検査は、バリウムを胃に流し込み胃の表面を薄く覆います。その影をレントゲンで撮影し、胃壁の凸凹などをチェックして病気のもとを探す仕組みです。胃全体をシルエットとして遠くから見ますので、胃の形や大きさなどはよく見えますが、ピンポイントでの変色などは一切わかりません。
つまり、「そこにポリープがあるか」などの胃の細部を見るには胃カメラ、「ポリープがいくつあり、どのくらいの大きさか」などの胃の全体を見るにはバリウムが適しているわけです。
ただし、バリウムでないと発見できないのが「スキルス胃ガン」です。これは通常の胃ガンと違い、ポリープが粘膜の上に出てこず、胃の表面ではなく隙間に伸びていく、悪性度が高い進行ガンだからです。
今から24年前、人気アナウンサーの逸見政孝さんが患ったガンとして大騒ぎになりました。
2歳下の弟さんがスキルス胃ガンにかかり、31歳の若さで亡くなっていたため、逸見さん自身は年に2回ほど胃カメラ検査をしていました。この当時は初期のスキルス胃ガンは胃カメラでは発見が難しく、バリウム検査のほうが発見しやすかったのですが、胃カメラ検査を受けていた逸見さんは治療が遅れて亡くなりました。
私自身は1年ごとに胃カメラ検査とバリウム検査を交互に行って、両方チェックすることを勧めていました。しかし、最近はその場で細胞をつまみ顕微鏡判定に提出ができるなど、胃カメラの性能が向上しています。加えてバリウムによる放射線障害が小さくないのも胃カメラを勧める理由です。
バリウムの場合、被曝線量が胸部X線写真の150倍とも言われており、毎年受けた場合、遺伝子の本体であるDNAを傷つける作用があります。そのため、バリウム検査は3~4年おきなど間隔を開けるとよいでしょう。加えて、バリウムを飲んだあとの排便で苦しむ人もいるため、「バリウム検査よりは胃カメラ検査」だと言えるでしょう。
胃カメラ検査は口から太いカメラを飲むため苦しいイメージもあります。しかし、最近では痛みも苦しみも少なく、「鼻からの細いカメラ」で検査もでき、昔よりはるかに楽な検査方法となっています。
胃ガンは遺伝との因果関係が比較的ハッキリしているガンであるため、家族や親戚に胃ガンの人がいる場合、マメにチェックをすることをお勧めします。30歳を過ぎたら年に1回、まずは胃カメラ検査をしてみてください。異状がなければそのあとは5年に1回程度でかまいませんが、所見を言われたら年に1回ほどの検査を受けるのがベストです。小さな異状からガンが見つかることもあるため、気になる人は、検査をマメに行ってもいいかもしれません。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。