今回は、日本人の死因の話です。「悪性新生物=ガン」「心臓疾患」「脳血管疾患」を合わせると、3人に1人がこれらの病気で亡くなっています。ガンにかかる比率は2人に1人ですが、今は早期発見で治ります。死に至るのは、およそ3人に1人となっています。
ではここで質問です。日本人の三大死因である「悪性腫瘍、脳、心臓」疾患について考えてみましょう。どの病気で死ねればあなたはいちばんいいと思いますか。今回の設問には回答はありません。最近は「ピンピンコロリ」などと称され、「常に元気で、ある日突然亡くなるのが理想だ」と口にする方も少なくありません。しかし、脳血管疾患にかかると、助かった場合も歩行麻痺が残ったり、運が悪いと寝たきりや植物状態になります。
死亡率が30%とも言われる心筋梗塞や心不全などの心臓疾患も、「ポックリ」と亡くなることが多くあります。こちらは症状が出てからすぐに病院へ行き、カテーテル治療に成功すれば後遺症は残りませんが、対処が遅いとさまざまな合併症に悩まされます。
逆にガンは「ポックリ」がありません。別の言葉で言いかえれば「余命がわかる」という利点があります。突然亡くなってしまった場合、本人は苦しくないかもしれませんが、遺された家族はとても困ります。また、患者もやり残したことがあることでしょう。
そう考えると、もし死因が選べるなら、私はガンを選択します。余命宣告されたら人生の終わり方を考えます。最期にやりたいこと、また最期に会いたい人に会いに行きます。家族と一緒に旅行をしたり、食べたいものを食べたり、思い出の地を訪れたり、恩人や親友に感謝の意を述べます。子や孫にビデオレターを残すのも、10年20年先の明るい思い出となるでしょう。
同時に、家族が困らぬようにさまざまな手続きや整理を終えて、心残りのないように死にたいと考えています。
ガンの恐怖は「痛みと苦しみ」といいますが、医療技術の進歩により、今は痛みがものすごく軽減されています。脊髄からチューブを入れて麻酔を入れたり、モルヒネの錠剤や座薬で痛みをコントロールできます。食事ができないなどの苦しさも、胃に穴をあけて胃ろうを作ることもできます。肺ガンの場合、呼吸は苦しいですが、呼吸を楽にすることは可能です。
昔のように痛くもなく、苦しさもなく、死を迎えることができるのです。ガンは死ぬまでに、かなりのインターバルがあります。ガンにかかってから十数年も生きてこられた樹木希林さんのあり方は、私は理想的だと思います。
ただ、前提として、平均寿命まで生きたり悠々自適な場合の話です。
若い人の場合、ガン宣告を受けたら何よりも「死ぬガンか否か」を調べることが肝心です。最近は医療技術の進化も目覚ましく、「手術」「放射線治療」「抗ガン剤(薬物療法)」の他に免疫療法も加わりました。セカンドオピニオンやサードオピニオンにより、さまざまな治療法が模索できるので、情報を集めて1、2週間で早めに結論を出して治療に専念しましょう。民間療法を利用する際には、担当者の医療的な肩書をよく見ることです。そして、ガン検診を怠らないのは言うまでもありません。万が一、悪性腫瘍やステージが進んだ場合でも、残りの人生を楽しく生きるための手術を受け、過度に落ち込まず明るく生きてください。
さて、私のお話は今週で終わりとなります。3年以上もお読みいただき、まことにありがとうございました。健康の源は「明るく暮らすこと」です。これからも元気で過ごしてください!
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。