「だけど、その辺の70過ぎのジジイよりは面白いだろ?」
先日、毎週土曜日の生放送で、いつもどおりにスキあらばふざけ、ボケを放り込んだ殿は、放送を終えると、楽屋に戻る間に、自身のその日のボケを振り返り、冒頭の言葉を漏らしたのです。そんな殿の言葉に「はい、いますよね。何一つ面白いこと言わないジジイが」と、少し乱暴な言い回しで、反射的に返すと、殿は笑いながら、
「いるよな。ただまじめーに、何一つ面白いことを言わず、長いこと生きてるジジイが」
と、食いぎみに答えたのです。当たり前ですが、このやり取りは、あくまでふざけているだけであり、まじめに生きてきた方々をバカにしてるわけでも何でもなく、“お笑いをひたすらこの年までやってきた自負”のようなものと、今日までくだらないことばかりやって食ってきた“自分自身に対するあきれ”的な思いが詰まった言葉なのです。当然ですが、別に面白いことを一つも言わずに人生を終えたとしても、別段、悪いわけでも何でもありません。で、そんなふざけたやり取りのあと、打ち合わせのため、遅い時間から場所を移動し“来週、何やるか?”的な話し合いをひととおりやり終え、雑談タイムに入ると、殿はかなり唐突に、
「だけど、あれだな。俺はいつまで働くんだ?」
と、その場にいたディレクター、放送作家、そしてわたくしに問うよう、大きな独り言を漏らしたのです。さらに、
「だけど、どのタイミングで仕事減らすかわかんねーしな。まーでもな、体が元気なら無理して減らす必要もねーか。なかなか難しいとこだな」
と、まるで他人事のように“ビートたけしのこれから”について分析し出したのです。そして、
「まーでも、もうそんなに長いことねーか。ほっといてもくたばるか!」
と、やや自虐的なセリフを放り込むと、
「やっぱり、あれだな。芸人なんてのは、自分から辞めるなんて言わなくても、ちゃんと世間から飽きられて、仕事なんてなくなっていくんだよな。だから、引退なんて自分で決めなくても、ほっといても引退させられるからな」
と、これまでにも殿の口から何度か聞いたことのある“たけしが思う芸人の引退について”を口にし、そんな話題を閉めたのでした。
ちなみに、殿は別段、感傷的になっていたわけでもなく、いたって普通のテンションで、そんな話題を口にしていました。が、やはり、そういった話題を持ち出すのは珍しく、わたくし的には印象的で、興味深い夜となりました。で、そんなことがあってから1週間後、殿にお会いすると、「おい、ライブはどうなった? 日程は決まったか?」と、今、殿の中で大変夢中になっている仕事の一つの「ビートたけし単独ライブ」の次回の詳細について、やる気満々に聞いてきたのでした。しかし、やっぱり殿は、ちゃんと元気です。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!