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五木寛之×椎名誠「僕たちはどう死ぬるか」(5)存在すべてを消すチベットの鳥葬

椎名 日本人の死生観については、死と墓を結びつけて考え過ぎてるのではないかとぼくは思っています。大昔は死んだらそれこそ野ざらしでそのあたりの谷に死体を捨てても大丈夫だった。いまはそういう自由がなくなっちゃってるから、日本の死生観ってのがおかしくなってるんじゃないかなと思うんですね。いろんな国を旅して、死生観の違いを強く感じましたね。

五木 死に関する慣習について、どこの国に興味深いものがありました?

椎名 チベットには3度ほど行きましたけども、古都ラサからチベット仏教の聖地のカイラスに行くまでに1000㎞あるんですが、その途中のいたるところに“鳥葬場”があるんです。

五木 まさに野ざらしの葬り方ですね。

椎名 日本人の感覚だと、鳥葬というと、残酷だとかって思われるんですけども、チベットの人たちは、死というものを非常に“裕福なもの”と考えているみたいです。巡礼にしても何にしても、貢ぐというか喜捨をすることで成り立っているところがあって、死ぬとその肉体は腹を空かせたコンドルやカラスや犬にあげるということなんですね。輪廻転生を含めてとても有効に活用しているところが、非常に面白いなと思いました。ほんとに何にもなくなっちゃうんです。

五木 鳥葬といっても骨だけは残るんじゃないの?

椎名 骨も砕くんです。砕いた骨をツァンパという遊牧民の主食の裸大麦の粉に、ヤクという大きな牛のミルクで捏ねてくるむんですね。そうするとコンドルが食べやすくなって、骨まで食べてしまうんです。そしてその人が写ってる写真もなにもかも捨ててしまう。この世の中からその人の記録を全部なくしてしまうんです。

五木 記憶も記録も消してしまうということか。

椎名 究極、施しの美学といいますかね。

五木 なるほど。(宇宙とか自然への)供養とか布施とか、そういう感じなわけだ。

椎名 いっそさっぱりして気持ちがいいんですよね。

五木 北九州の筑豊では、むかし葬式のことを「骨噛(ほねか)み」と言ってたんです。ほんとに親しい友人とか親戚などのお骨の一片をカリカリと噛む人もいたらしい。

椎名 ああ、いいですね。北極圏の人たちというのは、ツンドラみたいに凍った大地に埋めてしまうと永久にそこの死体が残ってしまう。それではいけないというので、海に流しているようですね。

五木 これは鵜飼秀徳さんの『無葬社会』(日経BP社)という本に書いてあったんだけど、石川県の火葬場で「ふるさと火葬」というのを始めたというんですね。北陸出身の人たちの遺体を小松へ送って火葬にして、遺骨を東京に送り返すという。この本のサブタイトルは「彷徨う遺体 変わる仏教」となっていました。

椎名 弔わない社会という意味ですね。

五木 20年くらい前にぼくが文藝春秋で出した本ですが、『うらやましい死に方』(五木寛之編・文藝春秋)という文章を一般から募集して1冊の本にまとめた本があったんですが。

椎名 読者から集めた手記ですね、読みました。

五木 けっこう面白い死に方があるんです。死の直前に正座して南無阿弥陀仏と唱えて、「自分はこれから死んで極楽浄土へ行くんだ」と言って、ほんとにそのまま息絶えたなんていうケースがあったり、「あんパンを食べたい」と言って実際にあんパンを食べたあとにコロっと死んじゃったとか、作り話じゃなくて事実として面白かった。今年、『君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)という本が大ベストセラーになったんだけど、まったく、「君たち」でなくて、「おれたちはどう死ぬか」という話なんですよ。死に方についていま真剣に考えないといけないなというのが実感なんです。

五木寛之(いつき・ひろゆき):1932(昭和7)年、福岡県生まれ。作家。北朝鮮からの引き揚げを体験。早稲田大学露文科中退後、編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞。76年『青春の門 筑豊編』ほかで吉川英治文学賞。主な著書に、『朱鷺の墓』、『戒厳令の夜』、『風の王国』、『親鸞』(毎日出版文化賞特別賞)、『大河の一滴』、『人生の目的』、『運命の足音』、『他力』(英文版『TARIKI』は2001年度BOOK OF THE YEAR・スピリチュアル部門)などがある。02年菊池寛賞受賞。また『下山の思想』、『生きるヒント』、『林住期』、『孤独のすすめ』などのほか、最新刊に『七〇歳年下の君たちへ』。

椎名誠(しいな・まこと):1944(昭和19)年、東京生まれ。作家。79年『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。『哀愁の町に霧が降るのだ(上・中・下)』(81~82)、『あやしい探検隊』シリーズ(84年~)、『インドでわしも考えた』などの紀行文、純文学からSF小説、写真集など、幅広い作品を手がけている。90年に映画『ガクの冒険』を監督し、91年には映画製作会社「ホネ・フィルム」を設立して映画製作・監督として『うみ・そら・さんごのいいつたえ』(91年)、『あひるのうたがきこえてくるよ。』(93年)、『白い馬』(95年)などを製作。90年、『アド・バード』で日本SF大賞を受賞。『岳物語』『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)、『家族のあしあと』『そらをみてますないてます』などの私小説系作品も多い。

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