「King&Prince」の岩橋玄樹さん、「Sexy Zone」の松島聡さんと、アイドルが相次いでパニック障害を公表、療養のため活動を休止したことが話題となりました。
パニック障害とは、強い不安を感じると、動悸や息切れを起こす症状です。電車の中で貧血を起こしてから、電車に乗れなくなったなどといった「特定のシチュエーション」で感じた緊張や恐怖、不安がきっかけになります。今年引退したオリックスの小谷野栄一選手もパニック障害がありました。そのきっかけになったのは、2軍時代のシーズン終盤戦で巨人の桑田真澄投手と対戦した際に「打たなければ」と極度に緊張し、打席で嘔吐したのがきっかけだったそうです。
「動悸、発汗、身震い、息切れ、窒息感、胸痛、嘔気、めまい、現実感喪失、恐怖感、異常感覚(うずき感)、冷感・熱感」などのうち4つ以上の症状が認められ、発作が急激に始まり短時間でピークに達すると、パニック障害と診断されます。
やっかいなのは他の精神疾患を併発しやすい点です。アメリカの研究によれば「うつ病併発率」が50%以上、その他でも「全般性不安障害」「社会恐怖などの恐怖症」「強迫性障害」などを発症しやすくなります。命に関わる病気ではないものの、不安感にさいなまれて暗くなりがちで、日々のパフォーマンスが低下するうえ、人間関係にも支障を来しやすくなります。
では、ここで質問です。こうしたパニック障害を治療する場合、カウンセリングで治すべきでしょうか、あるいは薬に頼るべきでしょうか。
メンタルの病気は、レントゲンや各種検査で原因がわかるものではありません。「いつからかかっているか」「家族や友人、職場での人間関係はどうか」「仕事で嫌な点はどこか」など、対面式の自己分析しか原因を探る方法がありませんが、こうしたカウンセリングで少なくとも30分から1時間ほどの時間がかかります。
一方で、パニック障害の診断をして薬を出せば1人あたり10分ほどで終わります。病院経営としては非常に効率的で、薬の処方を中心とする心療内科が少なくないのが現実です。
しかし、精神安定剤や抗精神薬などは、恐怖感を感じないよう感受性を鈍くさせると同時に気力が衰えて、仕事や日常のパフォーマンスを落とすことになります。最悪の場合は、薬に対して依存症にも陥る危険性すらあるのです。また副作用として眠気、血圧低下、頻脈、高熱、意識障害、体重増加、血糖値上昇、便秘、排尿障害、性ホルモン異常など、さまざまな危険をはらんでいます。
こう考えると、きちんと話を聞いてくれる、カウンセリングを主とした心療内科に通うべきですが、問題は、いいカウンセラーが見つかるかどうかです。
一度通ってみて、すぐに薬を出されるようなら、医者を替えてみることです。きちんと話を聞いてくれる心療内科に巡り合うまで、ドクターショッピングをしてみてください。また、口コミやSNSで探すのも一つの手段です。
ただ、自分の話を親身に聞いてくれる友人や家族がいるならば、まずは真剣に話してみることです。小谷野選手は福良淳一さん(前オリックス監督)が「何分でも待つから、打席に立つことから始めよう」と、打席で何度もタイムをかけてもらい、野球を続けたそうです。野球選手はドーピング問題があるため薬を飲めなかったそうですが、薬に頼らず時間をかけた結果、小谷野選手は長いことレギュラーとして活躍できたのでしょう。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。