書き記したエンディングノートを「遺言」とするにはどうすればいいか。弁護士の中野頼房氏が、
「遺言には公証人の前で作成する公正証書遺言と本人の自筆による自筆証書遺言がある。エンディングノートは法的拘束力はないが、様式さえ満たせば、自筆証書遺言になります」
としたうえで、こう話す。
「例えば、葬儀はこういうやり方で200万円の費用で済ませ、財産の残りの部分を子供たちで分けてほしいとエンディングノートに書いたとします。この場合、葬儀のやり方についての希望は死後事務委任契約といって拘束力はありません。しかし、財産から200万を差し引いて相続するというのは自筆証書遺言になる。ただ、自筆証書遺言の場合、書き間違えると間違えた個所に遺言に捺印した印鑑と同じ印鑑で訂正印を押さなければならない。ハンコの押し方ひとつ間違えても無効とされます」
自筆証書遺言は、パソコンで打ったものはダメで自筆が必須。それに日付と捺印があれば、広告の裏に書いてもかまわないという。
一方、公正証書遺言は、遺言を作る人が公証人の面前で、遺言の内容を口で説明し、それに基づき公証人が、その真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言として作成するものだ。
遺言を書く際には、さて、どんな内容の遺言にしようかと思い悩むことも少なくないが、そんな時も、公証人が相談を受けながら、必要な助言をして、遺言を書く人にとって最善と思われる遺言書を作成していくことになる。
公証人は、多年、裁判官、検察官等の法律実務に携わってきた法律の専門家で、正確な法律知識と豊富な経験を持っている。それゆえ複雑な内容でも、法律的に見てきちんと整理した内容の遺言にできるうえ、方式の不備で遺言が無効になるおそれもない。公正証書遺言は自筆証書遺言と比べ、安全確実な遺言方法と言われる。
また、公正証書遺言は、家庭裁判所で検認の手続きを経る必要がないため、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現できる。さらに原本が必ず公証役場に保管されるので、遺言書が破棄されたり隠匿や改ざんをされるおそれもない。金子氏のように、体力が弱ってきたり、病気のため公証役場に出向くことが困難な場合、公証人が遺言を書く人の自宅、または病院等へ出張して遺言書を作成することもできる。
公正証書遺言の費用は目的価格(相続額)によって異なる。500万までが1万1000円で1000万までが1万7000円。3000万までが2万3000円。5000万までが2万9000円。相続合計が1億に満たない場合は1万1000円が加算される。
中野弁護士が続ける。
「遺言はいわば財産目録。誰に相続させるかが書かれていますが、あとで相続人の間でトラブルが起きないようにする付帯事項が大切です。法律事務以外の申し送り事項です。例えば、子供が3人おり、その中でA子に対し少し厚めになっているが、『それはA子が病弱なためである。自分が死んだあとは助けてやってほしい』と書けば、分配の背景がわかり、トラブルも回避できます」
子孫に美田を残さず──そう思っても、その日のために、いつでも遺言を作れるエンディングノートぐらいは書き残しておきたい。