「みんな、国籍の書かれたパスを携帯しているから、ウソついたって最終的に身元はバレる。しかもアラブ系の顔なら一目瞭然なのに、『イスラム教徒のアラブ人だ』って、外国人が必死で命ごいする声も聞こえてきたってね」(A氏)
そんな極限状態だからこそ、生命の確保に躍起となる心理状態は理解できる。
もっとも、武装勢力はイスラム教徒たちに対しては、アルジェリア人ではなくとも寛容だったという。はなから、外国人、異教徒たちを狙い撃ちしたからだ。
事件を起こしたのは国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」の元幹部モフタール・ベルモフタール司令官率いる「覆面旅団」で、実行した40人は傘下組織「血盟旅団」のメンバーだったという。司令官は犯行声明で、隣国マリへのフランスの軍事介入の停止や、アルジェリア政府に逮捕されているイスラム過激派メンバーらの釈放などを求めての行動だったと語り、欧米キリスト教国への敵視を表明していたのだ。
多くの罪もない人たちを犠牲者とする非道な犯行を起こした組織、そしてその首謀者・ベルモフタール司令官について、国際テロ事情に詳しいジャーナリストの村上和巳氏が解説する。
「非常に過激で、過去5年では最も『アルカイダ』を名乗って軍事行動を起こしてきた組織だと思います。かつて目立っていたイラクやパキスタンのアルカイダ系組織のように、見せしめで人質を斬首するという残忍な処刑方法も行いますが、両国組織のように多用はしないんです。その代わり、イラクやパキスタン系の組織がそうした行動を映像に残すなどセンセーショナルに痕跡を残すのとは対照的に、人口の少ない北アフリカの南部地域、砂漠地帯でひっそりとプリミティブ(原始的)に活動するためにえたいが知れず、拘束することも難しいのです」
こうした活動家たちが暗躍するようになった背景は、10~11年にアラブ世界で広まった大規模な反政府デモ活動、いわゆる「アラブの春」が契機だったようである。
軍事政権が崩壊したリビアで、軍が管理していた大量の武器が武器商人やテロ組織に流れていったというのだ。
ちなみに、今回の事件の舞台は、アルジェリアでもリビアとの国境近くである。
中東の紛争事情にも詳しい、軍事関係者が語る。
「今回の犯行グループから押収された武器を見てみると、対戦車でも効果を発揮する携帯火器RPG-7だったり、手榴弾にしても威嚇の音を重視する攻撃用ではなく、10メートル四方にダメージを与える守備用だったりと非常に殺傷能力の高い装備だった。正直、身元不明遺体のDNA鑑定をするという話が出た時には、存在が確認できないほど木っ端微塵になってしまった犠牲者もいたのではと思った。もしあれだけの武器が活用されたら、射殺じゃなくて肉片が吹き飛ぶ爆殺のレベルなんです」