騎手の右腕となって馬を手配し暗躍するエージェント。その存在や人間関係を巡っては、さまざまな「事件」も起きていた。裏切り、調整、謝罪、包囲網形成‥‥そのトラブル処理の舞台裏をクローズアップする。
さる調教師が言うように、「今や彼らなしに競馬は回らない」という存在となったエージェント(騎乗依頼仲介者)。主に競馬専門紙のトラックマンが「兼業」し、独立してフリーとなっている者もいる。リーディングを取るのもエージェントの腕しだいと称されるほど、その影響は甚大なのだ。だが、すんなりとその制度が確立したわけではない。
80年代後半、エージェントの存在を認めようとしなかったJRAが、それを最初に始めた「先駆者」である「競馬研究」の名物トラックマン・松沢昭夫氏を排除しようとしたことがある。
前号で書いたように、松沢氏は当時、担当する岡部幸雄とその騎手仲間で騎乗馬のやりくりをしていた。加えて「競馬研究」の「今日の岡部」というコーナーで、騎乗馬についてのジャッジも行っていた。この行為が「競馬の公正面上、好ましくない」と判断されたのだ。ところが、
「騎手のダブルブッキングが多発して、現場から『彼がいなくては馬の手配に困る』という声が上がったのです。それでしぶしぶJRAも折れたというわけです」(競馬サークル関係者)
エージェントを専門紙記者が兼ねることは、馬券を買う競馬ファンにとっても重大な問題だ。
11年の菊花賞。「競馬エイト」のヒロシ氏は、みずからがエージェントをする後藤浩輝が乗る6番人気のベルシャザールに自信の◎を打った。が、ベルシャザールは17着と惨敗。期待を裏切ってしまう。
それだけならよくあることで済ませられるが、後藤がツイッターで、〈レース中にDDSP(喉の気道が狭くなる病気)を発生していた。元々、喉が怪しかった馬なので‥‥〉とつぶやいたことで、大問題となった。
ヒロシ氏の予想に乗ったファンから「ヒロシ氏は喉が弱いことを知っていたのか、知らなかったのか。知っていても勝負になると信じて◎を付けたのか。自分の担当している騎手が乗る馬のことなので、ちゃんと説明してほしい」という苦情が「競馬エイト」編集部に殺到したというのだ。
ヒロシ氏は周知のように、「スーパー競馬」(フジテレビ系)でパドック診断も行っているが、その際、後藤の乗る馬にマイナス点はまず付けないと言われる。