元エージェントが言う。
「彼らは最初、豊が乗らない2番手、3番手の馬を斡旋していましたが、それらの馬が結果を出すにつれ、エージェント間で有力馬の回し合いを始めた。その中心にいたのが、福永や岩田康誠のエージェントを務める大物K氏。彼は関東のエージェントU氏とも連携して、集団を確固たるものにしていった。今や夏のローカル開催では、岩田を北海道に、福永を新潟に、川田将雅を小倉に振り分け、それぞれ有力馬に乗せているほどです。数の力にはどんなに天才であろうとも勝てませんよ」
実は武が「競馬ブック」を「敵に回す」ようになった裏には伏線があった。
95年の朝日杯3歳Sで、武が乗ったエイシンガイモンは2着になったが、「早仕掛け」だと翌日の「競馬ブック」に批判された。それを見た武は怒って、「競馬ブック」の取材拒否を断行。一時、両者の関係はぎくしゃくした。結局「競馬ブック」側が謝罪して取材拒否は解かれたが、武はその件以降、「競馬ブック」とは距離を置くようになったという。先のエージェントが語る。
「普通なら(栗東所属である)豊のエージェントを務めてしかるべきなのは『競馬ブック』のトラックマンやOBですよね。関西では独占状態に近いですから。それが『ホースニュース・馬』のチーフトラックマンをしていたH氏が担当となったのは、H氏が優秀だったこともありますが、そういう背景もあったからですよ」
現在、巨大集団の社台グループに見放されて不調に陥っている武は、馬を集めるためになりふりかまっていられない。
「昨年12月16日、仲冬Sのカフェシュプリーム(前走1番人気)に武が騎乗。これは元々、柴田善臣のお手馬だった。それをH氏が旧知の松山康久調教師のところまで営業に来て、『今週、豊の騎乗馬が少ない。どうしても乗せてほしい』と頼み込んだ。その日の武は3鞍しか騎乗依頼がない状態で、焦っていたんです。H氏は柴田にも『今週だけ乗せてやってくれないか』と頭を下げ、OKを出してもらいました」
ただし、これはH氏が昔からパイプを持つ調教師だからできたこと。そして現在、武とH氏が頼りにしている調教師には大ベテランが目立つ。馬主では、社台と縁の薄いメイショウの冠が付く馬の松本好雄オーナーにすがっているような状態だ。もともと松本氏とは親交が深いこともあり、勝ち負けできるような馬がいるとH氏が厩舎まで出向き、熱心に「豊に乗せてほしい」と働きかけるという。
その結果、本来なら絶対に乗り替わりにならない高橋隆厩舎と高橋亮騎手の親子コンビの馬、メイショウシレトコにも(2回だけだが)乗れるようになった。それが稼業だとはいえ、H氏には心苦しいところもあるに違いない。