騎手と調教師の間で騎乗馬を巡ってトラブルが生じると、その処理に当たるのはエージェントだ。
11年11月10日のプラタナス賞(東京)は、中舘英
二騎乗のオーブルチェフが勝利したが、当初、中舘騎手は天間昭一厩舎のエイコオハヤテに乗ることになっていた。それを「どうしてもオーブルチェフに乗りたい」と一方的にキャンセル。結局、鞍上が空いたエイコオハヤテには、中舘と同じエージェントU氏の担当騎手・藤田伸二が騎乗することになった。
レース結果から判断すると(エイコオハヤテは9着)、中舘の判断は間違っていないように見える。が、この「裏切り行為」に天間師はかなりおかんむりだったという。さるベテランのエージェントが話す。
「人間関係を重んじる厩舎社会では、先約のキャンセルはご法度。これを破るとその厩舎の馬には当分、乗れなくなったりします。もしキャンセルなどをする場合は、事前に馬主や調教師に説明が必要。また、そのためにエージェントの存在がある。プラタナス賞のゴタゴタは大変でしたが、辣腕エージェントと呼ばれたU氏の努力もあって、何とかコトを収められました。ただ、オーブルチェフに中舘が乗りたかったのもよくわかります。このあと、地方GIの全日本2歳優駿に勝つほどの馬でしたから」
同じく、勝つ可能性が高いほうの馬に乗りたいがために問題を起こした騎手が、福永祐一だ。
11年の毎日王冠で、ダークシャドウ(堀宣行厩舎)に騎乗して勝った際、「次(天皇賞・秋)もこの馬に乗りたい」と“失言”。すでに池江泰寿厩舎のトゥザグローリー騎乗を約束していたエージェントK氏は慌てふためいた。もし、先約をホゴにすれば、エージェントとしての信用を一気に失ってしまう。早くからベリー騎手で天皇賞に臨むことに決めていた堀厩舎にも迷惑をかけてしまう。
結局、K氏がダークシャドウ陣営に「福永は乗りたがっていたようですが、先約がありまして」と頭を下げて一件落着となったわけだが‥‥。
ちなみに、その天皇賞でダークシャドウは2着、トゥザグローリーは5着。福永の心境は、どんなものだっただろう。
福永と並ぶ天才騎手・武豊も、エージェントにまつわる問題ではエピソードにコト欠かない。武のここ数年の不調の裏には、年齢的な衰えや落馬事故の影響、社台グループとの決別などさまざまな理由が指摘されるが、エージェントの力量差が要因となっていることもまた事実である。裏事情を知る元エージェントは、
「関西を牛耳っているのは事実上、『競馬ブック』のトラックマンを中心とするエージェント集団。豊は彼らの包囲網に屈したのです」