〈“世の中金やない”とか、“金よりも愛だ”なんて言っている人間を見てごらんなさい。ほとんどが金のない者たちである〉
こんな書き出しで始まる問題の著書のサブタイトルは、「とっておき“オレの方法”全公開」とあり、〈金のあるときに使う、明日は信じない。自分と現金しか信じない〉などといった、板東の“ゼニ”に執着した人生観が新書版で208ページにわたってつづられている。
問題の部分は、「社長になって“脱税”せえへんか」というそのものズバリのタイトルで、板東の脱税論がこと細かに語られている。まず、税務署が個人事業主に厳しいことに触れ、政府が税金を効率的に回収するために、サラリーマンを増やすよう誘導していると主張する。
〈サラリーマンは日本の宝です。サラリーマンがいなけりゃ、日本はこけます。そらあんた、文句なしにいきなり税金天引きでっせ。国は楽ですわ。手間かからんから〉
そしてこう続ける。
〈税金なんてね、決まった率や額なんかやないんですわ。みんな、担当の税務署員の腹ひとつで決まるんです〉
著名人・芸能人の脱税に関しても、
〈タレント側が経費としたもんを、税務署の担当官が「ノー」と言うだけのこと。脱税でもなんでもない。スケープゴートですわ。タレントの脱税騒ぎは絶好のアピールの機会なんですわ、税務署にとって〉
今回の一件で、板東が反省しているはずもないであろうことがうかがえる記述である。
税務署を鼻であざ笑う一方で、担当官たちとは個人的に親交を深めていた。
〈私なんかわからんことがあったら、必ず税務署に聞きに行きます。そら、向こうは本職ですからねえ。こっちが、うだうだ考えるより向こうに聞いたほうが早い。それに、脱税じゃなくて節税ですから問題はない。ほんま、けっこう親切に教えてくれまっせ。まあ、帰りには担当の人にサインのひとつは頼まれますけどね〉
この“営業活動”が功を奏したのか、板東は23年にわたり国税庁のPR活動を行い、07年には「初日申告連続20年」で名古屋国税局から感謝状を送られていたのだった。1億の架空取引の調査結果が出ながら、わずか7年分の申告漏れ7500万円のみの指摘で済んだのも、こうした関係で手心が加わったのか─。税理士法人TAXGYMの税理士・税務訴訟補佐人である渡邊勝也氏は今回の罪の重さをこう解説する。
「アメリカでは虚偽の申告をしている場合には、永久に時効は成立しないと言われています。日本の場合は法の安定性という運用上の理由で7年を排斥期間としています」