自分に関係する会社で金を回す手段こそが今回、板東のとったものである。その手口はすでにこの本で解説されていた。会社はアホでも作れると断言した板東はこう語るのだ。
〈(作った会社で)何を売る? いえいえ、何でもええんです。まあ友達と相談して、大企業のやり方をまねしてください。つまり、儲けた金は関連企業や子会社に出資したり発注したり、内輪で金を回す〉
本書では服飾デザイナーという職業を例にあげて系列の企業で金を回す手口が紹介されている。デザインに必要な筆記具を関連会社から仕入れ、事務所は友人の不動産屋から借り、製品は系列店で陳列‥‥と、今回の一件とまったく同様の脱税手法が子細に説明されているのだ。しかも、
〈これやったらまだまだ広がりまっせ。なんせ交際費だけでも400〜500万円使えるんでっせ〉
と、意気揚々と言い放つのだった。
〈普通商売ちゅうのは2割儲かったら成り立つんですわ。けど、税金は5割も持っていきよる。そしたら、商売に身を入れるより脱税、いやいや節税に力入れるのはあたりまえです〉
板東の中で節税と脱税の境界線は完全に見えなくなっていたようだが、この一文を読んだ前出・高島氏はこう語る。
「脱税をする人に何かのパターンはありません。“する人はする”ということです。億のお金を稼ぐのは本当に大変なことです。それに比べて領収証を書いてもらうのは簡単なことです。気持ちはわかるけれども普通はしません。ですが、このようなものの考え方をする人は、脱税をする傾向は持っていますね」
さらに板東の舌鋒は収まる気配を見せない。「非合法な節税の仕方も教えまひょ」と軽く言いのけ、風俗店の経営を推奨しながら、こう締めくくるのだ。
〈ネズミ講や先物取引のニュースを読んで、「悪いやっちゃなぁ」と思ってしまったらそれまで。「何はともあれ金儲けしたのは偉い!」と単純に素直に見ることができる感性が必要です。「他人の不幸より自分の幸福」。これですよ、これ。幸福になるのは自分だけでよろしい〉
国民の3大義務の一つである納税の義務を、まるであざ笑うかのようである。
その板東は、夏の甲子園大会で83奪三振という、現在でも破られない偉大な大記録を作り、59年に中日ドラゴンズに入団した。しかし、すぐさま金儲けのことばかり考えるようになったという。
〈「こら2〜3年しかもたんな」と本気で思いました。と同時に、野球では負けても、違うことで勝ったろ。これは野球をやめてからの勝負や。つまり、金や。金を持ったほうが勝ちや。こう思ったんですわ。どうです、これが当時18歳の少年の考えやと思えますか〉
入団2年目には寮近くの牛乳店を購入し経営。シーズンオフにはみずからマッサージをするアルバイトをして小銭を稼ぐようになった。