作曲家の平尾昌晃は、百恵と淳子のドラマ主題歌を1度ずつ提供している。百恵は“赤いシリーズ”の主題歌として「赤い絆」(77年12月)を書いた。
レコーディングスタジオで顔を合わせ、しばらく雑談したかと思うと、百恵のほうから「それじゃいきましょうか」と切り出す。
「僕が歌ったデモテープも、彼女のスケジュールでは聴く時間も少ないし、手こずるかな‥‥と。それで1回歌ったら、何も指示するところがない。五木ひろしでも少しはアドバイスしたけど、どこがどうと言わなくて良かったのは長年、曲を書いてきて初めてのこと」
それでも3度ほどレコーディングを重ね、最後は百恵自身が「もう1回だけやっておきましょうか」と場を締めくくるように言う。
平尾は、まだ10代でありながら、その大人の振る舞いに驚嘆した。百恵がいるから「中3トリオ」は仲良しでいられるのだろうと思った。
平尾はNHK「レッツゴーヤング」の司会や、また自身も畑中葉子とのデュエット「カナダからの手紙」が大ヒットして、出演者としても2人と何度も顔を合わせた。
「舞台袖で見ていると、淳子ちゃんや昌子ちゃんに対して、百恵ちゃんがワンポイントだけアドバイスしているんだ。たとえば淳子ちゃんはキャラは明るいけど、やや下向きになってしまうことがある」
淳子の出番の直前、百恵が耳もとでささやく。
「歌う時の客席への視線を、目の高さより下げちゃだめよ。せっかくきれいな目なんだから」
その一言で淳子は上向きかげんに、生き生きとした表情で歌い出す。また後輩の高田みづえが後ろで小さくなっていると、サラリと告げた。
「あなたは小柄なんだから、前のほうに行きなさい」
みずからが出しゃばることはないが、ひとたびアップになると、誰よりも「据わった目」を見せるのもまた百恵だった。引退後、平尾がプロデュースした原辰徳の結婚式に夫婦で出席してくれたことは、今も感謝してやまない。
淳子では主演ドラマ「玉ねぎむいたら…」(81年、TBS)の音楽と同名の主題歌を手がける。また平尾が長らく音楽を担当した“必殺シリーズ”の「必殺商売人」(78年、ABC)では、淳子がオープニングのナレーションという大役も務めている。
「女性が『必殺』のナレーションは珍しいけど、彼女の語りはうまくハマっていたと思う。僕が作曲家として見ていた淳子ちゃんは、皆で笑っていても、フッと寂しそうな表情を見せる子というイメージ。だから彼女には、不倫して自分が傷つくタイプの歌じゃなく、うんと年上の人に恋をするようなせつないラブソングを歌わせたかったね」
平尾が書いたアグネス・チャンの「草原の輝き」との熾烈なレースを制し、73年のレコード大賞最優秀新人賞は淳子が獲得。平尾は、アイドル性では淳子のほうと納得していたという。
すでに百恵も淳子も在籍しないが、あれほど個性が違い、それでいて互いを認め合うライバルの存在が少ないことが今の歌謡界の沈滞だと平尾は思う。